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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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妄走劇

17/05/14 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:800

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 誰にだって一度はあるだろう。自分が正義の味方になった妄想。
 学校に忍び込んだ殺人鬼を単身でぶっ倒したりだとか、文字通り“変身”して悪の組織を壊滅させたりだとか、そういうやつ。男だったら一度はあるはずだ。

 俺はそんな妄想を、二十代半ばにして毎日行なっている。毎日敵をボッコボコにやっつける、もう殺す勢いで。実際に数えてみると羊が何匹いても足りないくらい殺(ヤ)っちまってるもんだから、どっちが悪党だかわかったもんじゃない。

 ただ一つ思ったのは、もし実際に俺たちの生きている世界で、そういった頭のおかしい奴らと戦わなきゃいけなくなった時、俺は一歩前に踏み出して、ファイティングポーズを取ることができるだろうか。
 あぁ、今のままじゃ無理だ。

 なので俺は、肉体改造を試みる。キックボクシングを習い始める。一生出会うことすらないかもしれぬ敵を待ち構えている。二年経っても俺の妄想は止まらない。とんだ馬鹿野郎だ。

 ーー上腕二頭筋を重点的にイジメ抜いたジムからの帰り道。街中を歩いていると一人の老人がこちらへ近付いて来る。彼はすれ違いざまに一言呟いた。
「人を殺すなよ」
 俺は目玉が飛び出すくらい驚き、即座に後ろを振り返った。
 だけど、その男はすでに雑踏に紛れて姿を消していた。

 それからも男は幾度となく現れ、俺に忠告を続けた。
「妄想も大概にしとけ」
「人殺しは重罪だ」
「黙っているのが正義の場合もある」

 奴は刹那で俺の前から姿を消す。いつも横顔しか見れないのだが、そいつのこめかみ部分には、2cmほど轍(わだち)のような古傷が刻まれていて、俺は心のなかでそいつのことを轍じいさんと呼んだ。

 そんなある日、俺は銀行にいた。
 各々にナンバーが振り分けられて呼ばれるなんて、何だか囚人みたいだなっていつも思う。誰にも話したことはないけど。

 いよいよ自分の番が近付いてきたタイミングで、覆面を被った男三人が、勢い良く銀行内に侵入して来た。
 一人が入口兼出口を塞ぎ、二人が拳銃を構えて銀行員へ叫んだ。
「強盗だ! 金を寄越せ!!」

 テレビや映画、漫画でしか見たことのない、ベタベタなやつがきた。
 現実は絶体絶命のピンチなはずなのに、俺の心は何故か躍っている。
 そうだ、やっと特訓の成果を見せる時が来た。この時を待っていたんだ。

 すっかり怯えきった十数人の老若男女を尻目に、俺は低い姿勢で地面を一度叩くと、走り出した。
 突然の行動に反応の遅れた強盗Aに飛び蹴りを食らわせると、そいつの手から拳銃が零れる。
「てめぇっ! 何してんだ!!」
 Bがこちらへ銃口を向け、一発。どうせモデルガンかエアガンだろ、とか思ってたら、ちゃんと実弾が入っていて俺の顔面を掠った。鮮血。あ、これマジなやつだ。と思う間もないほどアドレナリンギンギンで、俺はさっきまでAの持っていた拳銃を手にすると、Bへ一発引き金を引いた。銃弾はBの腕に命中し、Bも拳銃を落とした。咄嗟に客の一人が銃を奪い取ったので、これで撃たれる心配はなし。俺はBの顔面に右フックをお見舞いして、ボディーに蹴りをくらわせる。一丁上がり。一瞬にして二人をノックダウンさせた。あと一人。俺は誰も殺しちゃいないぞ。

「おいコラ! 大人しくしねぇと、こいつぶっ殺すぞ!!」
 入り口に立っている残党が、客一人の首根っこを掴んで叫ぶ。
 俺は一切の躊躇もせず、Cへ向かって銃弾を放つ。まるで映画の暗殺者。俺、格好良い。Cの左足に銃弾は命中し、膝をついた。俺は暴牛のように突進すると、回し蹴りをCの顔面へお見舞いする。これで悪党どもは全滅だ。銀行員も客も、みんなが手を叩いて喜ぶ。

 これで俺は正義のヒーローだ、英雄だ、絵空事のような妄想を今叶えたぞ。

「きゃぁぁあああっっっ!!」
 突然、客の一人が悲鳴をあげた。両手を天に伸ばして賞賛のシャワーを浴びる俺は、声の方向へ目を向けた。

 そこには、先ほどCに人質にされていた中年男性が、血を流して倒れていた。俺は急いで首の脈を指で測る。もうすでに息絶えていた。

 ーー彼を殺したのは俺だ。
 俺がCに向けて撃った弾丸は、骨の強固な部分に当たって跳弾し、男性の頭部に突き刺さる。即死だったらしい。

 俺のしたことは確かに正義だったはずなのに、と振り返りながら、道端で出会った、あの老人の言葉をふと思い出す。

「黙っているのが正義の場合もある」
 もしかして俺が出しゃばったりなんかしなければ、誰も死なずに済んだのだろうか。すべて警察に任せていればーー。

 俺はBに撃たれたこめかみの傷を撫でながら、何度も妄想を続ける。もしあの時、俺が何もせずに黙っていた場合の妄想を。

 ーーその傷が、あの轍じいさんと同じ部分にあることに気付くのは、まだまだ先のことだ。


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このストーリーに関するコメント

17/06/18 光石七

拝読しました。
前半はコミカルな印象を与えていた妄想という言葉がラストは心に重くのしかかり、とても効果的だと思いました。
正義とは何か? 正義の行いで犠牲が生まれるなら、それは果たして正義なのか?
考えさせられるお話でした。

17/06/19 浅月庵

光石七様

自分の行なった正義が、とんでもない悲劇に繋がる
というやるせなさを描いてみました。
何もせずに黙っていた場合の妄想、というくだりは
後から付け足したので、効果的だと言っていただき
とても嬉しいです!
ご感想ありがとうございました。

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