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藤原光さん

藤原光 ふじわらひかる。ブログ「ひかるのこころhikaru99.com」を運営。 掌編小説や、ショートショートと呼ばれる、短めの小説を書いています。人間観察や、風刺的なものが主です。 Twitter @fhikaru99

性別 男性
将来の夢 心理学者・カウンセラー
座右の銘 人間万事塞翁が馬

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とあるビジネスマンの公園内のベンチにて

17/05/09 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:0件 藤原光 閲覧数:3665

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輝は生粋の仕事人間。日々仕事に追われる日々。仕事が人生。貯金額が伸びていくのが何よりの生きがいである。背筋を伸ばし、エリートオーラで風を切りながらきびきびと動く。常に一秒たりとも無駄にせぬよう、自己啓発書を肌身離さず持ち歩き、移動中は憑りつかれた様にオーディオブックを聞いている。

彼には平日も休日もない。もちろん日曜日も出勤である。休日に芝生でのんびり?何を考えているのか。そんなのは時間の無駄だ。ゆったりとくつろいでいる人たちを横目に、輝は日々、ビシッと決めたスーツと、磨き抜かれた革靴を身にまとい、芝生の上の数倍の生き心地のわきを、数倍の俊敏さで颯爽と横切っていった。

しかし人生とは儚いもので、昨今の粉飾や不正の影響は、この男にも襲い掛かった。

輝は解雇宣告を言い渡された。「優秀なのに、日々血がにじむ思いで頑張っているのに、なんでこの俺が?もっと使えないやつだっているじゃないか?なんで俺なんだ?」

途方に暮れる仕事人間は、正午前の人がそんなにいない公園をふらつく。何人かはいるが、ビニールシートと段ボールを抱え、空き缶や雑誌を収集する人、平日の昼間から仲間となけなしのワンカップ大関を水道水で薄めながら、宴会を開く人たちが目に入る程度である。

苔と老朽で今にも崩れそうな木製ベンチに腰掛けた。ぐったりとうなだれ、放心状態で目を閉じた。公園にとってみれば、高級スーツの男は異物にしか見えなかった。

どんな放心状態も放っておけば少しは落ち着く。輝は目を閉じたまま、感覚を研ぎ澄ました。スズメなのか烏なのかはたまた鶏なのか。鳥のさえずりが聞こえる。風速2mほどのそよ風が彼のほほをなでる。草木が「ざー」とも「ぞぉー」と音を立てている。

昼休みが近くなってきたのか、このスーツの男と同人種の人々が足早にファミリーマートの袋をもって公園を訪れる。座ったかと思えば一気にコンビニの袋を空にする。食べながらスマホをいじる。電話がかかってきた。レンジで温められて多少やけどしそうなほどの明太子スパゲッティを食べながら、肩と耳の間で挟んでいるスマホで通話をしている。器用なものである。もはや大道芸のような光景である。何かあったんだろうか。熱すぎるスパゲッティをはふはふしながら頬張り、咀嚼しながら足早に横断歩道の方へ、公園の数倍の俊敏さで走っていった。

思えば公園に用事もなく入ったのはいつぶりだろう?小学校ぶりじゃないのか?物心ついてからはやれ、受験だ、中学校高校では毎日軍隊のように部活動。大学に入ったかと思えば今度は資格試験。資格をとったかと思えば今度は就職活動。わずかなそれぞれの合間にはやれ卒業旅行だ、追いコンだだの、下手をすれば進学就職前課題だの、気が休まったものではなかった。

そのまま夕焼けになり、人々がビルから続々と出てくる。その光景も何かの訓練のようにただ黙々と歩いている人々。

公園脇のバーからは、しんみりとジャズが聞こえてくる。音楽かー。最後にピアノを弾いたのはいつだろう?夢中で発表会に向けて練習したこともあったっけ。あの頃は費用対効果だとか、コストパフォーマンスだとか、キャリアプランだとか、出世だとか、そんなものは一切抜きに純粋に音楽を楽しんでいたな。

そのまま日が暮れた。昼は汗ばむくらいであったが、夜は少し肌寒い。背中もむずむずっとし、左手の二の腕には鳥肌が立っている。寒さで鳥肌が立ったのなんて、いつぶりだろうか。これも小学校ぶりかな。寒い日のプールの授業の後が最後かな。

街灯の下で開催されているワンカップ大関の宴会の方も仲間たちが増えてきたようだ。彼らは、数倍の俊敏さは全くないが、午前中から一貫して数倍の生き心地を感じているようである。

クオリティ・オブ・ライフ、Quality of Lifeとは何だろう。タイムカードの時間、通帳の数字で測れるものなんだろうか。

彼は生きがいを失って、初めて生きていることに気が付いた。

長くも短いこの人生の休日で、彼は生きがいを失い、生きがいを見つけたのかもしれない。


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