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水沢洸さん

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とある女の独白

17/05/09 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 水沢洸 閲覧数:168

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「はっ。なによこれ、矛盾だらけじゃない」
 偶然見つけた紙切れを眺め、ひとりごちる。
 そこに書かれていたことはまさしく矛盾だらけ。テーマも主張もぶれぶれで、読むに耐えないひどいありさまだった。特に前半と後半で結論が変わってるのなんか彼らしすぎてわらってしまう。しょせんは思いついたことを書きなぐっただけの日記帳。期待はしないほうがいいだろう。
 いくら中庸を騙ったとしても、独善を掲げた時点で誰かの悪になることは確定している。しかも彼のやっていることといえば、皆の意識を染めあげる『思考の画一化』に、自身が考えた最高の物語という『社会』の筋書き通り、箱庭すべてを『歯車』と化した『閉鎖世界』の創成。
 もはやあきれを通り越して感心すらしてしまう。
「まったく……あなたのおかげと言うべきか、あなたのせいと言うべきか」
 しかしどちらにしろ、世界は変わり始めてる。
 自分自身でメチャクチャにしてやったというのもあるが、彼の働きがなければここまでの変革はありえなかっただろう。
 今回の世界では……いや、今回の世界でも、ニンゲンたちはよくやっている。それこそ、こちらの想定を遥か上回るほどに。
「導師の誕生。勇者の誕生。神の謀反に、ニンゲンの覚醒。今度の世界では、いったいなにが起こるかしらね」
 遠く、遠く、そとの彼方へ馳せるように目を細める。ニンゲンの欲望に対する期待と興奮で、顔が自然と緩んでしまう。
「さて、あたしも機が熟すまでは身を潜めておかないと。でないとすぐに、黄昏《フィナーレ》が始まっちゃうわ」
 ひまつぶしにもならない紙切れを放り捨て、演劇よろしく肩をすくめる。
 彼の遺留品が燃えていくのを静かに見つめ、不退転の決意を固める。

 これが正しいなんて思わない。
 これが正義だなんて思わない。
 それでも自分は決めたのだ。
 あのとき心を照らした明かりを。
 誰かを愛するよろこびを。
 あの子に教えてもらったから。
 はじめて知ることができたから。
 だから、この先どうなろうとかまわない。
 やることはなにも変わらない。
 正義だろうが悪だろうが、そんなものは関係ない。
 ただこの恋を成就させるため。
 ただこの愛を貫き通すため。
「せっかくの“人生”だもの。ニンゲンらしく足掻いて足掻いて、愚かで純粋な愛に、狂ってやるわ」
 そして邪魔するものには容赦しない。
 それがたとえ、どこぞの神であろうとも。
 これは戦争だ。
 ニンゲンの愛《せいぎ》と、神の秩序《せいぎ》の戦争だ。
 譲る気はない。
 負ける気はない。
 かならず勝利してみせる。
 ニンゲンとしてのしあわせを手にいれてみせる。
 だから神よ、覚悟しろ。
 しかし嘆き悲しむことなかれ。
 怨嗟に猛ることなかれ。
 たとえ対立しようとも。
 たとえ殺しあおうとも。
 かつての事実は変わらない。
 穢れた真実は変えられない。
 だから祈ろう。
 安息を祈り、捧げよう。
 あなたたちへの鎮魂を。
 ニンゲンによる、大団円《レクイエム》を。

 ――そして彼の証しは朽ち果て、その存在は影にとけた。


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