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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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最終回! 「グリーンゲートの少年たち」★文化祭での小冊子 『文化祭当日 午後から』冬華

17/05/09 コンテスト(テーマ):第105回 【 自由投稿スペース 】 コメント:1件 ちほ 閲覧数:436

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 午後二時に冬華は学校へ向かう。二回目の登校だった。今頃、みんなは何をしているだろうか。もう一般客も受け入れているから、本がたくさん売れているかもしれない。その本には冬華の作品も含まれている。小冊子のことも数に入れると、彼の作品が一番多く載せられている。それを思うだけでも愉快になってくる。それだけのチャンスを与えてくれた朝香先生に感謝したい。
 冬華は、ふと足を止めた。病気を治すことを優先で生きてきた自分に、父が宿題を出した。
(どんな勉強をしたいのか、そして将来どんな仕事をしたいのか)
 慌てて答えを出すものではないだろうけれど、朝香先生のようになりたいと突然思った。
「教師?」
 病気を治すことしか頭になかったが、今では世界はどこまでも広がっている。どんな夢でも成功に導くことは不可能ではないと感じた。

「こんにちは!」
 元気よく冬華が教室に入ると、お客様がたくさんいた。今がどうやら一番忙しい時間のようで、『文芸部』の生徒たちも『ものがたりクラブ』の生徒たちも、全員がくるくると働いていた。本を売ったり、移動黒板の詩を解説したり、予定にはなかった『文芸部』と『ものがたりクラブ』の合同で行われている『自分でも詩を一つ書いてみよう』のコーナーも大盛況だ。その中で、受付にいる静波だけがうとうとと眠っていた。眠るにしても受付はよくないと思い、冬華は彼を起こそうとした。
「静波、起きて」
 耳元でささやいてみる。
「ヤダ、ボク、冬華さんと一緒に眠るんだ。約束したもん」
 半分眠った声で返された。そんな約束しただろうか? しかし、こう教室内を眺めていると、自分がやれることはないみたいだ。だからと言って、昼寝をするつもりもないが。そういえば小冊子を書かなければならなかったと思い出し、静波の隣の席につく。
「冬華、待っていたよ。もうすぐ勝負が決まるぞ」
 鳴海が、わくわくする気持ちを抑えきれない様子で言う。
「えーと、負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞く、ての?」
「そう、たぶんこちらが負ける。売上金で勝負だけど、全然もうけがない」
 冬華は、席を立って『ものがたりクラブ』のお菓子の空き缶を見に行く。わずかな小銭が入っている。そして、『文芸部』の方のお菓子の空き缶もそっとのぞいてみると、お札が何枚も入っている。うん、『ものがたりクラブ』は負けている。負けているけど、鳴海は気にしていない。本が間違いのないように使われていくのなら、それは負けではないと思っている。例えば、午前中に出会った小雲のおばあさんは、みんなを温かい気持ちにさせてくれた。そして、ぜひ読んでほしい気持ちで本を手渡した。まぁ売上金はずいぶんと負けているが、『文芸部』の部長が、サービス精神0の『文芸部』を売上金だけで本当に評価してしまうかにも興味がわく。
 冬華が教室内を見渡してみると、忙しいからという理由だけでなく、『文芸部』の生徒たちから『ものがたりクラブ』に対しての、警戒心やら嫌悪感が消えていることに気がついた。自分のいないうちに、何かあったのだろうか? それを兄の鳴海に問うと、
「おまえの影響力がとても大きくて、それが『文芸部』の生徒たちの心を動かしたんだ。自覚ないのか?」
「えーと?」
「おまえの人の心を動かす力は立派なものだよ。おれにはできないことだ。午前中のほんの一時間で、彼らの心をおまえは変えてしまった」
 お茶は、紙パックの特大タイプを新しく買ったらしく、紙コップに注いでお客様に手渡されていく。本は、たいていの人が『文芸部』と『ものがたりクラブ』の両方を買ってくれた。冬華の小冊子(文化祭当日 午前中)は、次々と本に挟まれていく。今書いている(文化祭当日 午後)は、廊下などで出会う人みんなに配って歩くのだろう。それも悪くないと思う。忙しかった教室内が、最後のお客様を見送った後、静かになった。
「他の教室は見たかい?」
 『文芸部』の部長が冬華に聞く。
「ううん、廊下を歩いたくらい。でも、ここにいても十分に楽しいからいいと思っているよ。それに小冊子を書くのも楽しいし。本の発売と同時進行だから」
「本当に同時進行だものなぁ。今書いているのも配るんだろう? すっごいアイデア!」
「朝香先生のアイデアだよ」
 そう話しているところに、朝香先生とラファル先生と一人の若い女性が教室に入ってきた。眠たそうにしていた静波が「ぴゃあ!」と嬉しげな声を上げて、両腕を高く上げてブンブン振った。すっかり覚醒した様子だ。
「香織さーん!」
 少しおなかの大きい彼女は、彼に優しく微笑んでみせた。そして、みんなに向き直るとまた微笑む。綺麗な人だった。どこか朝香先生に似ている。綺麗なだけでなく、その目力で強い意思も持ち合わせているとわかる。
 ラファル先生が、自分の後ろからついてきていたその女性を、面白くなさそうにちらりと見る。香織さんは、みんなに頭を下げて名乗った。
「香織といいます。ラファルの妻で、朝香の妹です。よろしくね」
 教室中が、波を打ったように静かになった。そして、誰かがささやく。
「ラファル先生、独身て誰か言わなかった?」
「ていうか、朝香先生の妹さん?」
 どこをとっても学校中の噂になりそうな話題である。あの朝香先生とラファル先生が義兄弟なんて誰が想像できたか? 
「来るなって言ったのに」
「でもラファル、わたしがお祭り好きなこと知っているでしょう? それに、あなたが先生をしているところを見られるなんて、こんなチャンスはそうないわ!」
 元気なお嫁さんだ。
「やりにくいよ。まるで監視されているようだ」
「気にしないで先生をやってくださいな」
 にこにこ笑顔の香織さんを、誰もが好きになった。あのラファル先生を手のひらの上でころころころがしているところなど見物である。そんな二人を見て、朝香先生は呆れて溜息をつく。
「ところで、例の勝負は?」
 ラファル先生が『文芸部』の部長に聞く。
「あと一冊だけ」
 すると月帆も、「『ものがたりクラブ』も、あと一冊で売り切れです」と言う。「じゃあ」と言い、朝香先生が『文芸部』の本を買う。それを見て、ラファル先生も『ものがたりクラブ』の本を買った。〈しおり〉を朝香先生から受け取ってあるのに、彼はそれを使わず、負けとわかっている『ものがたりクラブ』の本を、自分のお金で買ってくれた。
「さて、『文芸部』の勝利だ」
 『文芸部』の部長が言う。
「売上金は、こちらの勝ち」
 そして、続けて言う。
「お客様に対してのサービス面は、こちらの負け」
 もちろん、そもそもは売上金の勝負だったのだが、自分たちのサービス精神のなさを見せつけられていた『文芸部』のメンバーは「自分たちこそが勝ちだ」などとは一言も言えない。誰もがどうしたらいいのかがわからなくなっていた。先生方も、助け船など出す気はないらしく、少し唇に笑みを乗せていた。ラファル先生など、お客様用の椅子に座り『ものがたりクラブ』の本を悠々と読み始めた。途端、
「ちょっと! こら、朝香! この〈あとがき〉はなんだよ!」
 ラファル先生が吠える。
「書く必要に迫られてね」
 朝香先生は平然としている。
〈あとがき〉? 冬華も『ものがたりクラブ』の本を開く。『文芸部』のメンバーも横からのぞきこむ。そこには、朝香先生とラファル先生と香織さんの驚くべき過去が語られていた。『ものがたりクラブ』の四人とも読んでいなかったことが不思議だ。それぞれが自分の作品を確認するくらいで、他の作品は後でじっくりと読むつもりだったのだ。例の〈あとがき〉には『朝香』という名はない。『ものがたりクラブ顧問』と書かれてある。それは、もちろん朝香先生のことだ。朝香先生とラファル先生と香織さんの放浪日記風。ページ数は他の作品と比べて圧倒的に少ないけど、生徒の作品よりインパクトがあるかもしれない。
「どうして書いた?」
 不満そうに問うラファル先生に、朝香先生が無表情に答える。
「世間で君がなんて呼ばれているか知っているか」
「いや」
「男を追いかけている男性教師」
「はぁ?」
「ぼくに付きまとうから。非常に危ない噂が、学校外にも流れつつある。それをくい止めるために書いてみたのだが、迷惑だったか?」
「ずいぶんとおれのことを善人として書いたようだが、おれは別に善人ではない。変人でもないけど」
「ぼくにとっては、善人で命の恩人。胸を張ったらいいじゃないか」
 一体どこの誰が、この二人を犬猿の仲と言ったのだろう? 仲が悪いように見えて、とても信頼しあっている。お互いに相手を思いやり…………思いやり? 
「あぁ、そういうことか」
 鳴海の呟きが、冬華の耳に届いた。そう、勝ち負けでいがみあうより、単純に手を差し出せばいい。改めて、『文芸部』の生徒たちに目を向ける。向こうもこちらを見ていた。この教室にいる全員が同じ答えを得たようだ。そもそも、どうして『ものがたりクラブ』はたった四人で活動していたのだろう? そう思ったとき、静波が右手を高く上げた。先生が、いつもの癖で「はい、静波くん」と声をかける。
 静波は立ち上がると、「ボク、怖くないよ」と言った。なんだそれ、と思っていたら朝香先生がここにいる全員に説明する。
「そもそも超引っ込み思案な静波のために、『ものがたりクラブ』はつくられたんだ。ぼくが校長に無理にお許しをもらってね。で、静波、どうしたいの?」
「ねぇ、『文芸部』と『ものがたりクラブ』って合体できないの?」
「統合のこと?」
「うん。できないの? ぼく、もう怖くないよ? 『文芸部』の子、みんないい子だもの」
 朝香先生は、きらきらした目の静波を見つめた。その瞳の中に、恐れは少しもなかった。こんなに大きく静波が変化したのは、どこにも居場所がなかった彼が、朝香先生と暮らすようになって、ようやく心が安定したからだろう。
「あぁ、それいいかも」
 ラファル先生も言う。
「『文芸部』は、『ものがたりクラブ』から大切なことを学ばないといけない」
 すると、朝香先生も言う。
「まぁ、こちらもいつまでも少人数でちまちま活動するのもどうかと思うし、静波とメンバー全員に異存がなければ」
 『ものがたりクラブ』の四人は、『文芸部』の生徒たちに笑顔で受け入れられた。誰もが肩や腕を親愛の印に軽く叩き合っている時、突然ドアから校長先生が顔をのぞかせた。いつものように、彼女はきっぱりと言った。
「よろしい!」
 そして、
「やっと『どうしようもない子』から脱しましたね、静波。あとは、授業中に眠らないことです! ほんとうになんて手のかかる子でしょう」
 声の質をがらりと変えると、さらにこう言った。
「朝香先生にラファル先生、部活動の手続きのため、文化祭後に校長室に来てください」
 校長先生の唇に、わずかな笑みが浮かんだ。あの校長先生が笑った! 誰もが驚いた。

 最後に、筆を置く前に面白い会話を聞いたので、ここに記しておく。
「朝香先生、ボクと暮らしてくれるのは嬉しいけど、先生はどうするの?」
「なにが?」
「ボクがいると結婚できないよ?」
「おまえごと受け入れてくれる人と結婚するからいい」
「じゃあ、ボクそういう人、さがしてみる! あ……」
「どうした?」
「ボクがお嫁さんになればいいの?」
「いや、それ、ものすごく違う」

 あと、個人的にもう一つ。
 アリスは、ぼくに会えずに帰ってしまった。けれど、本を〈しおり〉でもらって帰ったらしい。彼女は、鳴海兄さんに伝言を残した。
『次の水曜日も、いつもの約束の場所でサンドイッチを一緒に食べましょうね』
                                   (了)


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このストーリーに関するコメント

17/05/09 ちほ

「グリーンゲートの少年たち」は、今回で終了となります。
読んでくださった方々に感謝いたします。
1作1作は短いお話ですが、全て繋げて長いお話となっています。
(「ナルニア国ものがたり」の構成で、「クオレ」を書いてみたかったのです)
未熟な点もあったと思いますが、これだけたくさんの人たちに読んでいただけて、
嬉しい限りです。
ありがとうございました。

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