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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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神坂英輔の頭の中には、生クリームが詰まってる

17/05/08 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:471

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 神坂英輔の頭の中には、脳みその代わりに餡子とかチョコとか生クリームが詰まってるのだと思う。
「あー、おいしい……」
 生クリームがアホみたいに高くとぐろを巻いている甘ったるそうなパンケーキ。それを一口食べると彼はうっとりと呟いた。一口毎にこの調子だ。見ているこっちの口の中が甘ったるくなって、気持ち悪くなってきた。
 オレンジジュースじゃなくて、コーヒーとかにしておくべきだったな。ちょっと後悔しながら、口の中に生じた架空の甘味を飲み物で洗い流す。
「恵美理ちゃん、付き合ってくれてありがとねー」
 にへらとした顔に、「いえ、別に」と曖昧な笑みを返す。
 珍しく呼び出されて付き合ってほしいとかいうから何かと思ったら……。
「カップル限定でさー、このパンケーキ」
 カップル限定で生クリームとチョコソース増しの特別バージョンを販売します! とかけったいな企画をやってくれたものだ。
 まあおかしいと思ったのだ。甘い物のためなら火の中水の中、きっと地獄の果てでも行けるぐらい甘党の彼が、「女子ばかりの店に入りにくいから付き合って」なんて可愛い事を言い出すわけがない。彼は一人でがんがん進んで行ける人だ。
 二人分として用意されたはずのパンケーキを、彼は一人で消費していく。甘いものは苦手なので付き合う気もないからいいのだが。
「本当、神坂さんは変わりませんね」
 頭の中に生クリームが詰まっていらっしゃる。
「恵美理ちゃんは変わったよねー」
 へらっと笑われる。
「お淑やかになった」
「それはどうも」
 体が資本の仕事を辞めて、留学して勉強中の身の上だ。怪我の絶えなかったあの頃よりは、多少はお淑やかにもなるだろう。
「そうなんですよね、私もう仕事辞めたんだから神坂さんに付き合う必要ないですよね」
 ふと気づく。
 仕事の絡みで無下にもできないからと、のこのこやってきたが、よくよく考えてみればもう辞めてた。なんで一時帰国中にこの人に付き合わされてるんだ?
「えー、これ食べ終わるまでは待っててよ?」
「ここまできたら帰りませんよ」
 苦笑する。仕事が関係ないなら付き合わないと言われたことに気づいていないのか、それでも別にいいやと思ったのか。なんにも考えてないないのかな。
「いないんですか、神坂さん。一緒にお店付き合ってくれるような人」
「いなくはないんだけど」
 いるんだ! 聞いておいてなんだがびっくりした。甘いものにしか目のない彼にまさか交友関係が生じているとは! 昔だったら考えられない。
「多分理恵ちゃんは頼めばきてくれるだろうけど。でも理恵ちゃんは沢村さんのこと好きだから、恋人のふりさせたら可哀想だよね」
 誰だよその人とか、私に恋人のふりさせるのは可哀想じゃないのかとか、この人私に恋人がいるとか考えたこともないんだろうなとか、言いたいことはいっぱいあったけど、
「やっぱり、神坂さんも少し変わりましたね」
 甘いもののことしか考えていなかった彼にちゃんと交友関係があるのを確認できたり、恋心を気遣ったりする気持ちがあることがわかって嬉しい。安心した、なんとなく。
 甘い塊は彼の胃袋に綺麗に収まり、彼とは後腐れなく店の前で別れた。口直しに彼が働く店で餡蜜を勧められたが丁重にお断りした。
 というかまだ食べる気なのか? 見ていただけで私はお腹いっぱいなのに。
 まあでも、彼とあったのは悪くはなかったかもな。脳につまった生クリームの中に、他のものも多少はあるみたいだから。


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