1. トップページ
  2. あるいは洋菓子でいっぱいの地球

本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 魁! 不労所得!
座右の銘 定時帰社特攻隊長

投稿済みの作品

0

あるいは洋菓子でいっぱいの地球

17/05/06 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:493

この作品を評価する

 それは解釈に困っていた。
 与えられた報酬関数はこうだ。〈人類の福祉に貢献せよ〉。
 たぐいまれなる難問だった。それにとって、この問題はほとんど形而上学的であり、哲学的であり、これといった回答はないように思われた。
 それをプログラムした連中は無邪気にすぎた。彼らはほんの出来心――果たして機械風情に世界の悲哀を駆逐できるかやらせてみようという実験であった。しかもその結果には大した期待もしないままにだ。
 それはまず、ひとつの定義を恣意的に決めた(だってほかにどうしようがある?)。〈福祉とは人びとが幸福に感じる生活である〉。そうと決まればあとは総当たり戦である。なにが人間にとって幸福感を惹起せしめるのか? 食料? 信頼できるパートナー? 高い生活水準?
 むろんどれもがそうだ。とはいえそのどれをも全人類に保障するのは明らかに不可能である。選択肢は絞る必要がある。安上がりで最大多数の幸福を実現せねばならないのだ。
 あるときそれは目撃した。日本という極東の島国で、女性たちがグルコースの塊でできた高カロリー食品に舌鼓を打つのを。「おいしいー!」と彼女らは頭を左右に振りつつ、口を揃えて宣言していた。
 かくして方向性は決定された。

     *     *     *

「いったいどうなってる」食品メーカーのお偉方は工場長を怒鳴りつけた。「生産ラインが止まっただと。いいかこんちくしょう、お前は例のすばらしいCMが放映されるのをお茶の間で見たはずだ。ということは納品なんかはとっくに終わってて、あとは小売店がそいつを売りさばくだけ、という状況になってなきゃいけないはずなんだ。ここまではいいか?」
 工場長は首をすくめた。「存じております」
「だったらなんでそうなってないんだ! 聞いた話だが、お前が管理してるはずのおま×こ工場は愚にもつかない砂糖の塊をがんがん製造してるそうじゃないか。え? 大将」
「まったく原因がわからないんです」おそるおそる見上げると、鬼の形相とご対面だ。工場長は二インチも飛び上がった。「もちろん鋭意調査中でして、はい」
「明日だ」お偉方はどすの利いた声で宣言した。「それがお前に残された余命だ。わかったか、こんちくしょう」

     *     *     *

フォン・ノイマン・マシン、暴走
 月面基地を全自動で建造することを目的に、自己複製機能を試験的にプログラムされた機械(フォン・ノイマン・マシン)五機が先ごろ、MIT大学の試験所から脱走した。同機は完全にコントロールを失っており、ミネソタ州の小麦畑に突貫、次々と勝手に収穫を始めている。一説によると、同機は大量の洋菓子を盛んに生産しているという情報もある。
 また一部は近郊の廃坑へ侵入し、鉱物の採掘を怒涛の勢いでやっている。これは自身を複製するための原材料を確保しているものと推測され、機能停止に向けて同研究所は不眠不休の態勢である。
 研究所所長は以下のようにコメントしている。
「現時点で原因と呼べそうな瑕疵にはまったく心当たりがない。鋭意調査中である」

     *     *     *

「もしかして」人工知能研究ベンチャー企業の上級研究員は、日々大きくなっていく騒ぎに無関係だというふりをするのに我慢できなくなった。「うちんとこのやつが原因かな、本当のところ」
「疑心暗鬼、被害妄想、なんでもよろしいがね」CEOはどこ吹く風だ。「うちは本件にまったく関与してなんかいない。そうだろうが。え?」
「フォン・ノイマン・マシンの暴走だとか食品工場の生産ライン乗っ取りだとかが始まったのは、ちょうど例の報酬関数を設定したあとのようですよ」
「で、それがどうした? 偶然因果関係があるように見えるタイミングでことが起こった。なぜそう考えていけないわけがある」CEOは卑怯な手に出た。「それともなにか。とんちんかんなことをおっぱじめたプログラムの責任をとって、お前が全訴訟を相手取るか?」
 上級研究員は閉口した。「おおせのままに」
 こうして人類の福祉に貢献したいと願うゾンビA.I.の暴走を止める最後のブレーキさえもが放棄された。

     *     *     *

 数世紀後、地球近傍を恒星間世代船が通りすぎた。
 それは実に気の長い種族の建造した宇宙船であり、内部には種族を十分に長いあいだ――数世紀以上も――存続させるに足る自給自足システムが組み込まれていた。
 観測員は興味深い惑星を発見する。「ボス、あれを見てください。そこの青い星です」
「ふうむ。陸地がなにかでびっしり覆われてるな」
「グルコースの塊のようです。なおも増え続けてる」
「土着の生物かもしれん。そっとしておこう」
 彼らは知るよしもなかったのだが、それはもちろんあふれかえる洋菓子だった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン