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月村千秋さん

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シュガー&パラダイス

17/05/01 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 月村千秋 閲覧数:208

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 なんなのこの深緑の液体は、そう思ってる私の顔をちらりと見て取ったディレクターは懇切丁寧に教えてくれた。これが昆布茶って代物で七日間飲み続けると、偉大な食物添加物でイエスかノーしか判別しなくなった鈍った舌を、ちょっとは味の分かるナイスな相棒にしてくれるってことを。
「目を閉じて飲めば味なんてしないから」
 ディレクターはそう言ったけど、実際私は目を閉じて飲み込んだけど、喉の奥にはねっとりした緑が貼り付いて青臭さが取れなかった。
突然の登場で驚かせちゃってごめんなさい。私の名前はジュリア。顔の良さだけで運よくモデルになれた私がノリでタレントに転向したときの初仕事がこれ。そう、あの一週間で人間を変えてしまおうっていう番組「チェンジヒューマン」の新コーナー。「シュガー&パラダイス」通称シュガパラ。
今思えば懐かしい限りなんだけど、最初の六日間はマジで思い出したくない。日本の精進料理っていう肉もチーズもトマトソースもドレッシングすらないすっからかんのご飯を食べさせられて、狭い個室のなかに閉じ込められて、ひたすらエクササイズ。口より先に手が出るおばあちゃん講師にビシバシされながら、余計な脂肪を落とすだけの時間を過ごした。
 その部屋に娯楽はほとんどなくて、辛うじてペーパーブックの棚があるだけ。本は好きだから退屈しなかったけど、人と話したくなりすぎて、というか苦痛すぎて、撮影されてることも気にせず歌なんか歌い始めた。
そんな感じでなんとか六日間を生き延びた私を待っていたのは人気男子アイドルグループの「ストリーム」だった。私は「ストリーム」の「ニコ」の根っからのファンだったし、この業界に入ったのだって七割くらいは彼に会えるかもっていう下心だったから、夢か幻覚としか思えなくて、おこがましくもニコに頬をつねって下さいってお願いしちゃった。そしたらニコはあの優しげな笑みを浮かべて
「嘘でも、夢でも、ないよ。六日間お疲れ様」
 って私のほっぺをつついてくれた。その仕草があんまりにも映画のワンシーンのようで、というより距離が近いのがささやかに言ってやばくて、もうどうしようもなくなった私は膝から小鹿のように崩れ落ちちゃった。
 転びそうになった私をニコがお姫様だっこしてくれてそのまま衣裳部屋に連れてってくれた。そこにはドレスから靴からバックからありとあらゆる装飾品が置かれてて、そこから今日の衣装を自由に選んだ。
私はショーンに純白のドレスを、ジョンにはサファイアやエメラルドが散りばめられたティアラを、マーティンにはガラスの靴を頼んで持ってきて貰った。後になってこの衣装のチョイスを友達から趣味が悪いっていじめられたけど、そのときはもう自分が自分じゃないみたいになって、シンデレラならこうでしょ、っていう義務感とかストリームの皆さんがやりやすいようにとか色々考えてああいう衣装になった。
それで無事に衣装が決まって、ニコに手を取られて着いた先がケーキ屋さん。サムの姿がないと思ったらパティシエの格好をしたサムが店番してて、お腹が痙攣するくらい笑っちゃった。
 それからサムをいじるメンバーやニコのやりとりを間近で見れて気付いたら涙が出てた。感情が追いつかなくって、なんだか申し訳なくて、でもそしたらニコが私にコメントしてくれた。
「なんかあれだよね、マーティンがさ、ファンの子が感激して泣いてるの見て、一緒に泣いちゃったの思い出したよね」
 そんな完全無欠のフォローをしてくれて、その場が温かい感じにまとまって、私はもう食べきれないくらいケーキを食べてやるって決意した。
 旬の苺とベリーのフレンチパンケーキパイ包み焼き、エクストラスーパーメロンショートケーキ、ブッシュ・ド・ノエル、ダージリンクッキー。目に映る好きなものを好きなだけ口に運んで、メンバーにケーキのお裾分けで一口大に切ったケーキを食べさせたり、サムにミルクティーを注いで貰ったりした。
 冷静を装ってるけど六日間の糖分断ちが効いたのか脳内はニューロンが沸騰状態。もし心臓の鼓動が聞かれてたら私は恥ずかしく死んじゃうかも。
 でもね、こんなに満たされたことって初めてで、だからもっと頑張ろうって思えた。
 人生には幸せなことって起きるし、もっと言えば起こせるし、そういう幸せな経験が一つでもあれば、それを思い出してやっていけるってそのとき思った。
 だから私はこのときのことを何度も何度も思い出した。それでね、仕事頑張ったからか分からないけど、今度彼らとまた番組に出ることになったんだ。舞い上がってるだけじゃだめだから、こうして文章にして落ち着こうって訳。けど、ありがとう付き合ってくれて。また良かったら見に来てね。あなたにシュガーの導きがあらんことを、なんてね。じゃあね、ばいばい。


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