1. トップページ
  2. キリッシュトルテ

seikaさん

かつては女子中学生でした。 こっちも見てください↓ http://silkytown.blog.fc2.com/

性別 女性
将来の夢 生まれ変わること
座右の銘 朝、一杯のコーヒー

投稿済みの作品

0

キリッシュトルテ

17/04/27 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 seika 閲覧数:269

この作品を評価する

ドイツ文学者の芋洗坂瑠璃子は初めて大ドイツ文学者、戸舞賛歌の書斎を訪れたことを思い出した。

杉並区成田の邸宅の二階にその戸舞賛歌の書斎はあった。床から天井間でびっしり並んだ膨大な洋書の数々、室内に流れる重厚なクラシック音楽、そしてアカデミックな雰囲気…
『ここがあの、本物のドイツ文学者、戸舞賛歌ノショサイなのだ。』
芋洗坂瑠璃子は思わず息を呑んだ。
『やぁいらっしゃい。どうぞこちらへ。』
戸舞賛歌はそう艶のあるテノールで芋洗坂瑠璃子を迎えた。
『ぼかぁいま、古代ローマ帝国史を、やっていましてねー。』
と戸舞賛歌は古代史ロマンに芋洗坂瑠璃子を誘った、。そして会話の途中、芳醇な香りのコーヒーとそして甘味を押さえた大人の味のキリッシュトルテが書斎に運ばれてきた。
『ぼかぁこのキリッシュトルテが好きでしてねー。』
と戸舞賛歌は艶のある声で絶賛した。

そんな戸舞賛歌が死去した。ホテル『ミナトシュージ』でドイツ文学者、戸舞賛歌さんの偲ぶ会が開催されて事は知っているが、芋洗坂瑠璃子は出席することはなかったので、戸舞賛歌さんを偲ぶ会事務局代表のナカノコーサク氏に連絡すると、
『僕はもう戸舞賛歌とも戸舞家とは一切関係無いので…。』
という答えが帰ってきた。おかしいな?と思いながらも芋洗坂瑠璃子は杉並の戸舞家を訪れることにした。
呼鈴を押すと到底ドイツ文学者の邸宅には似合いそうもない、ピンクのセーターにジーパン姿の今風の女性があらわれた。
『…。』
ビックリする芋洗坂瑠璃子に彼女は
『どちら様ですか?』
とたずねる。
『ドイツ文学者の芋洗坂瑠璃子です。戸舞賛歌さんの書斎を見せてくざたい。』
というと、彼女は
『どうぞ。』
といって二階の書斎に案内した…がそこはかつてのドイツ文学者の書斎ではなかった。天井からは洗濯ものが吊るされ、戸舞賛歌の机にはミシンがおかれ、クラシック以外流れないはずの戸舞家だったが事もしかもあろうに戸舞賛歌の書斎にユーミンなどのCDがおいてある…。
『ちょっとアンタ、いったいアンタ誰なの?ここは戸舞賛歌の書斎でしょっ!』
芋洗坂瑠璃子は彼女に声を荒立てた。
『どういう事、アンタみたいな人が戸舞賛歌の邸宅にいるなんて!出ていきなさいよ。今すぐに。目障りよ!』
すると彼女が豹変した。
『アンタ人の家に来て何いってんだよっ。』
と凄みのある声で言った。
『…何よ…。』
芋洗坂瑠璃子は動揺した。
『なんだって、あたしにここから出ていけだって!あたしが目障りだって!』
『…』
『今のアンタの言動は親族権侵害の不法行為の意思表示ね。内容証明送らなくても解るわね。』
『…貴女は戸舞賛歌さんの娘さん…?』
『そうよ。』
『…それは失礼しました…。』
芋洗坂瑠璃子は言葉を失った。
『芋洗坂さん、キリッシュトルテだったらすぐそこの
パティスリー お臍にあるわよ。でもキリッシュトルテは午前中に売れちゃうから…?』
『…』
そして芋洗坂瑠璃子は、どうして戸舞賛歌さんの偲ぶ会の司会をしていたナカノコーサクが
『僕はもう戸舞賛歌とも戸舞家とも一切関係無いから…。』
といっていた理由がわかった。彼女と衝突したからだった。
『キリッシュトルテ、あたしも好きだけど、あの人とあたしとの共通点って、そのくらいよねー。あたしにはドイツ文学何で関係ないわ。でもあの人はあたしのチチオヤなんだからあたしを幸せにする責任はあるわよね。自分の文学や学問よりも娘の幸せを…。』
芋洗坂瑠璃子は自分のドイツ文学者としてのアイデンティティーが音を立てて崩れていくのを感じた。
『あたしは悪魔になっても幸せを掴むわ。あたしの幸せを壊した人には幸せを償ってもらうのよ。ナカノコーサクとかに笑』
と、彼女は微笑んだ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス