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瀧上ルーシーさん

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性別 男性
将来の夢 プロ作家になること。
座右の銘 犬も歩けば棒に当たる。

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ジャスティス・スチューデント

17/04/26 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 瀧上ルーシー 閲覧数:518

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 ぼくが何もしなくてもいつかは終わると思っていた。
 だが終わらない。今日も昼休みの教室で桃子は不良の百円ライターでじわりじわりと長い髪を炙られていた。泣き叫ぶ桃子、後ろの席から傍観するぼく。見ているだけのぼくだが、内心腸が煮えくりかえっている。お前らはぼくの桃子に何をするんだ。誰に断ってぼくの桃子を虐めているんだ? そうは思いながらも虐められて涙を流す桃子から目を離せなかった。一つの歪んだ愛の形だ。ぼくは自分から桃子に何も言わないし、何もしない。桃子はきっとぼくの名前さえも覚えていないだろう。だがぼくは彼女を愛していた。
 昼休みが終わり午後の授業が始まるのだが、桃子の机の周りは焦げ臭かった。そのとき数学を教えていた教師はわかっている癖して、「煙草でも吸ってる奴がいるのか? 煙草は先生達に見つからないように吸えよ、つーか吸うな」なんて言って、クラスメイト達の笑いを取っていた。桃子が虐められているのはうちの学年と教師なら誰でも知っている。だが誰も積極的に助けようとしない。我慢の限界だった。今すぐにでもぼくの正義を見せてやる。そんなことを思っていると午後の授業が終わり、ホームルームも終わり、教室が閑散としていく。行動に移すなら早い方が良かった。
 桃子を虐める主犯格は冴島最可と言う。ぼくたちの年代なら珍しくもないキラキラネームだ。何がモカだ、エスタロンモカか? 泥水でも飲んでろ。ぼくはフェイスブックにイケメンの写真を使って偽名で登録していた。自己顕示欲が強い桃子を虐める奴らは自宅の住所までもフェイスブックに書き込んでいた。少し時間を空けて教室を出て、駅に向かいながらフェイスブックを通してメッセージを冴島に送った。『近くまで来たから会えないか?』するとすぐに返事がきた。『家の近くの公園で待ってる』なんてハートの絵文字付きのメッセージだった。女なんて男以上にイケてる異性に弱い奴らだ。冴島が公園にきたら、さっさと正義の鉄槌を食らわしてやろうと思う。都合がいいことに公園には誰もいなかった。冴島なんて邪悪な奴が住んでいる家の近くだから誰も来ないのかもしれない。ぼくは公園の茂みの中に隠れて冴島を待った。空が薄暗くなってくる頃に冴島は公園に入ってきてブランコの上でスマートフォンを操作していた。最後に何か言ってやろうかとも思ったが、ぼくはナイフを持って茂みから飛び出して冴島を何度も刺した。目は大きく見開かれ、彼女は動かなくなった。あらかじめ用意していた『次はお前の番だ』と書かれたルーズリーフをセロハンテープで冴島の顔に貼った。そうしてぼくは電車に乗って自分の家に帰った。人を殺した後でもお母さんが作る夕食は美味しかった。
 翌朝、ベッドから起き上がり制服を着て居間に行くと、冴島が殺されたとニュースになっていた。昨日の公園の入り口には黄色いテープが貼られていて、その光景がテレビに映っていた。別にどうでも良かった桃子が虐められなくなるのなら。ぼくが冴島の顔に貼ったメッセージのこともテレビでは報道されていた。
 朝食を食べて、電車に乗って学校に向かった。学校の校門前には報道陣が押しかけていて、インタビューに答えている生徒もちらほらいた。ぼくはインタビュアーを無視して教室に入った。
 この日ばかりは朝のホームルームが始まる前に勇気を出して桃子に話しかけた。
「良かったね。君が虐められなくなる日も近いよ」
 そう言うと桃子は目をつり上がらせて、ぼくの頬を叩いた。
「人が死んでるんだよ。なにそれ。悪い冗談? 冴島さんはたしかに私のこと虐めてたけど、死んで欲しいなんて思ったことないよ」
 涙声で吐かれた桃子のセリフは衝撃的だった。あれはたしかに正義のナイフだった筈だ。だが桃子は寸分も喜んでいない。正義とはいったいなんなんだ? 弱き者を助けることではないのか?
 その日、桃子が教室で虐められることはなかった。桃子を虐めていた他の奴らは本気で震えているらしい。そんな心配しなくていいのに。どうせぼくはもうすぐ捕まるのだから。
 午後の授業中、国語を教えていた教師が誰かから廊下に呼ばれた。そして教室に戻ってきた教師にぼくも呼ばれた。正義の代償を支払うときがきたのだ。冴島のことはスマートフォンで呼び出して殺したのだから、こうなることはわかっていた。言い訳できない通信ログがサーバーには残っている。教室を出る前にぼくは桃子に、ずっと愛していました、と言って頬にキスをした。桃子は怖い表情でぼくが口をつけた頬を手で撫でた。


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