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世界に誇れる美しい国

17/04/24 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 OSM 閲覧数:196

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 2011年3月11日の午後三時前、日ノ本大和が海岸に足を運ぶと、波打ち際で模範的一般市民たちが亀井三姉妹に暴行を加えていました。
 日ノ本大和は慄然としました。亀井三姉妹は傑出した実力を持つ拳闘選手ですが、人の眉をひそめさせるような発言をたびたびしました。ですから、彼女たちを快く思っていない人間は大勢いるのですが、まさか彼女たちに暴行を加える者がいるとは思ってもみませんでした。
 日ノ本大和は抜き足差し足で模範的一般市民たちの横を通り過ぎようとしました。不愉快だからという理由で他人に暴行を加えるような人間に関わり合いたくなかったし、どのみち、拳闘選手を腕力で屈服させるような相手に、武力を持たない彼が敵うはずがありません。
「待てよ、非国民」
 鋭い声が日ノ本大和を呼び止めました。彼は足を止め、模範的一般市民たちの方に向き直りました。彼らは亀井三姉妹に暴行を加えるのを止め、下卑た笑みが貼りついた顔を彼に向けています。
「無関心は犯罪だぜ、お兄さん。犯罪者には罰を下さないといけないな」
 模範的一般市民たちは日ノ本大和を取り囲みました。彼は閉塞感を覚えました。彼らは今にも暴力を行使する気配を漂わせています。
「あなたたちは間違っている」
 日ノ本大和は震える声で言いました。
「他人の言動が気に食わないからといって、その人に暴力を振るうのは、間違っている」
 模範的一般市民たちは顔を見合わせました。そして、ぎゃはは、と下品な笑い声を上げました。笑い終えると、一様に険しい顔つきになり、敵意を湛えた目で日ノ本大和をねめつけます。
「他人の意見を否定するとは、寛容じゃないな」
 彼らの一人が日ノ本大和の胸倉を掴みました。
「非寛容は罪だ。制裁を加えなければ」
 非寛容だと僕のことを非難したが、僕が非寛容だと思ったから非難したのではなくて、僕を非難したいから非寛容という言葉を持ち出しただけでは?
 そう思いましたが、とても口にできるアトモスフィアではありません。
 日ノ本大和の胸倉を掴んでいる者が、胸倉を掴んでいない方の手を固く握り、振りかざした、その時でした。
「死ね!」
 女性の声が響きました。空からです。
 一同の目と鼻の先の砂浜に、なにかが落下しました。そのなにかが体を起こします。女です。その全身は光り輝いています。
 光り輝く女は一同に向かって叫びました。
「墜ちた! 死ね!」
 わあっ、と歓声が上がりました。模範的一般市民たちです。
「臆することなく本音を口にした! この女は凄いぞ! 偉いぞ!」
 光り輝く女は満足そうに頷くと、懐から写真を次々と取り出してはばらまき始めました。模範的一般市民たちは我先にとそれを拾います。そこに写っているのは、四肢が失われた少女、顔面が陥没した男性、双頭の老婆――奇形の人々です。
「うわあ、綺麗だなあ」
「とっても素敵」
 写真に収まる人物を見た模範的一般市民たちは、口々に感嘆の声を漏らします。
「感動した」
「泣けるねえ」
 彼らはみな、全身を痙攣させ、口角から涎を垂らしています。
「かわいい」
「クールだ」
 彼らは次第に、感想を口にするのも面倒になってきたようでした。
「いいね」
「すごーい」
 その様子を唖然と見ていた日ノ本大和は、不意に不穏な気配を感じ、海を見やりました。遠くの海面に、一隻の黒い軍艦が浮かんでいました。
 突然、ぼっ、という、放屁音に似た音が響きました。軍艦の砲台から砲弾が発射されたのです。
 砲弾はゆっくりと、しかし着実に、一同がいる方に向かって飛んできます。
「呑気に写真を見ている場合か! 砲弾が飛んできているんだぞ! 早く逃げろ!」
 模範的一般市民たちに呼びかけましたが、彼らは全身を痙攣させ、口角から涎を垂らしながら、写真に見入るばかり。日ノ本大和の言葉など聞いていません。
 日ノ本大和は彼らに背を向けると、脱兎の如く走り出しました。光り輝く女と亀井三姉妹も、四人一緒になって、彼とは反対方向へ逃げていきます。
 飛来した砲弾は、日ノ本大和にでも、模範的一般市民たちにでもなく、光り輝く女と亀井三姉妹に直撃しました。凄まじい轟音が響き渡りました。濛々と白煙が立ち上り、やがて晴れます。
 砲弾が直撃したにもかかわらず、亀井三姉妹は全くの無傷でした。無傷なのは光り輝く女も同じでしたが、その姿は直撃前とは様変わりしていました。髪の毛が真っ白になり、顔中に深い皺が刻まれ、腰が大きく曲がっているのです。
 亀井三姉妹はきびきびと動き、騎馬を組みました。その上に女が乗ります。
「突撃!」
 女が高らかに叫ぶと、亀井三姉妹は写真に現を抜かしている模範的一般市民たちへと突進し、彼らを次々に撥ね飛ばしました。


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