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まーさん

物語作りの基礎としても、ショートショートで腕を磨くべく登録させていただきました。 読んだ作品にはなるべくコメントするようにしているので、ウザいかもしれませんがあしからず(笑)。 よろしくお願いします。

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概念のたまり場

17/04/24 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:4件 まー 閲覧数:293

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 上も下もなく、光も闇もなく、速さも遅さもない、そんな異空の領域があります。
そこは肉体を備えた生物が辿り着ける場所ではありませんが、無数の“概念”は立ち入ることを許されており、概念同士の交流の場のようになっています。ちなみに私はそこで概念観察記録官という職についている者です。
 ではどういった概念がやってくるかといいますと、
  動物や食べ物の概念、
  数や時の概念、
  形や色の概念、
  地面や空の概念、
  星、宇宙の概念などなどです。
 そしてこういった概念達には悩みといったものがあまりありません。これらの多くは客観的に本質をつかみやすい概念だからです。
 一方で以下のような概念は多くの悩みを抱えています。
  愛や憎しみの概念、
  幸福や不幸の概念、
  親切や非道の概念、
  勇気や臆病の概念、
  正義や悪の概念、
 これらがなぜ多くの悩みを抱えてしまうかというと、表にも裏にも、表裏一体にもなるという感じで、軸が定まりにくく本質が捉えづらい概念だからです。
 ――ただの愛ではなく、これは愛ゆえの憎しみだった。
 この言葉は地球という星で放送されていた、昼ドラなるもののキャッチコピーとして使われたことがあるものだそうです。なんともすっきりしない訳の分からない表現ですが、こんな一文からも捉えどころのない概念達がいかに混乱しているかが分かります。
 とりわけ正義の概念はたえず悩んでいるようです。おそらく自分の中に多くの矛盾する観点が混在しているからでしょう。
 それで私は正義の概念に、「より普遍的で最大の益があるものを選んで、その道を行けばいいんじゃないでしょうか」と、本音のアドバイスをしたことがあります。なぜか一睨みされて「君には分からないよ」だなんて言われましたけどね。まったくもって分からないのは概念達のほうです。
 とはいえ私は観察官。概念に向かって反論することは許されておらず、基本は見守ることしかできないのです。

 そんな正義の概念はこの日も悩んでいるようでした。誰か話し相手が欲しいのかきょろきょろと他概念を探しています。近くにいた悪の概念がそれに気づき、正義の概念のもとへとやってきました。悪の概念には社交的な一面があり、多くの他概念と分け隔てなく付き合っているようです。ですが自分に関係なさそうな概念のところへ行くあたり、ただ暇と退屈をもてあましているだけなのかもしれません。
「よぉ正義の概念、どうかしたか」
「悪の概念か……この際お前でいいや。俺の悩みを聞いてくれ」
 そんな物言いをされるも、悪の概念は正義の概念の話を黙って聞きました。

 正義の概念の悩み事は、やはり私のような観察官にとっては実に他愛もないものでした。悪の概念が話を要約して、確認するように尋ねています。
「なるほど。悪を正義が打ち倒したときに胸がすっとする感覚といったものが、実際には正義を隠れ蓑にした嗜虐心で……つまり、悪どころか邪悪に属するものじゃないかと、そういうことか?」
「ああ、まあ。でもお前はただの悪の概念だから分からないだろ? 本当は邪悪の概念に聞きたかったんだが……」
「そういえば邪悪の概念の奴最近見かけないな。前はあいつともよく語り合ったもんだが……」
 辺りを見回して邪悪の概念を探す悪の概念に、正義の概念が言いました。
「あいつ最近、サイコパシーとかナルシシズムとかキャベツリズムっていうものを考察してるんだそうだ。邪悪と関係が深いとかなんとかで」
「たぶんマキャヴェリズムな」
「いいよなあいつ……俺やお前と違ってそこそこ捉えやすい概念で」
 そんな正義の概念の落ち込んだ様子に、悪の概念は軽い調子で言いました。
「まあとりあえず気にするなよ。矛盾していようがいまいが、俺たちは確かに概念としてこうしてあるんだから。まだ俺たちが出会ったことのない、常識を覆すような概念だってあるはずだぜ」
 それから悪の概念は様々な観点を提示することで正義の概念を励ましました。くよくよするのは正義の概念の悪い癖ですが、だからこそ悪の概念も彼を放っておくことができなかったのでしょう。
 すると正義の概念のさっきまでの悩みようはどこへやら、今では“秩序としての正義の在り方”なんていう論題で自信満々に悪の概念に語り聞かせています。

 これからも正義の概念は繰り返しおちこむのでしょう。ですが、他の多くの概念同様、彼も永遠にわたって一つの概念としてあり続けるのだろうと思います。
 仮に、自分の概念が消えそうな日がくるとしても――。

   了


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このストーリーに関するコメント

17/04/25 文月めぐ

こんにちは。物語拝読いたしました。
「概念」が登場人(?)物という風変わりなお話、とても面白かったです。
「概念」とはとらえどころがなく、本当に難しいもので、彼らも悩みが尽きないのでしょうね。
概念について考えるきっかけになりました。

17/04/25 まー

>文月めぐさん

面白いといっていただけるとありがたい限りです。
書いた本人が言うのもなんですが、概念を擬人化っていうのは色々な意味で無理がありました(笑)。
単なる勉強不足でしょうね。こういった深いテーマがくると、もっとインプット量増やさなきゃなとつくづく思います。

17/05/08 泡沫恋歌

まー 様、拝読しました。

概念という言葉はよくつかわれていますが、実態のつかめない言葉かもしれない。
その概念でストーリーを考えられたのは、なかなか目の付けどころがユニークですね。

17/05/08 まー

>泡沫恋歌さん

ユニークと言ってもらえてありがたいです。
なんとかかんとか作りましたが、いろいろと難しかったです。
やっぱり擬人化にするような対象じゃないですね(笑)。

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