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つつい つつさん

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都会からきた女

17/04/22 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:513

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 マリーの葬儀は教会でしめやかに行われた。70年の生涯だった。たくさんの村人が参列し、皆、マリーの生前の温厚で穏やかな人柄を偲び花をたむけた。そんな中、一人の女が教会にやってきた。
「あの女なにしに来たんだ」
 皆がポカンとしながら不審な目で見る中、ボブやアーロンなどはあからさまに顔をしかめ、その女を睨みつけた。
 その女が村はずれに住み始めたのは、ちょうど1年くらい前だった。都会から流れてきたらしく農作業のせいで日焼けして浅黒い村人達とは違い、肌は白く手足は細かった。おそらく年齢は40半ばか50くらいであったが、目鼻立ちがくっきりした派手な美人だった。
 女が住み始めてすぐにお節介やきで噂好きのリンダが「なにか困ったことはありませんか」などと作り笑いを浮かべて女の家を訪ねたが、女は「フンッ、なにもないわ」と言ったきり、玄関のドアをバタンと閉めて相手をしなかった。次に、女好きのボブが「パブで一杯やらないか」と誘いに行ったが、女に「鏡見たことあるの。あんたみたいな田舎ものと飲んでる暇なんてないわ」と鼻であしらわれた。ボブはカンカンの怒り、その後一週間は村人達に「あんな女、この村から追い出しちまおう」といきまいていた。最後に村長の妻であるイザベラがこの村のルールなどを諭しに赴いたが、女は「私はこの村には住むけど、別に誰かと関わる気はないわ」と、イザベラを追い返した。
 その宣言通り、女は村で暮らしたが、本当に誰とも交わる様子はなかった。市場に来ても、妙にツルツルとしてつっぱった肌をツンと澄ましたまま表情一つ変えず、言葉さえ極力発せず、ただ買いたい品物をぶっきらぼうに指さすだけだった。村人達はこの無礼な女に腹を立て、やっかんでいたが、お金の払いだけはきちんとしていたので、そのまま放っておくことにした。
 
 マリーの一生は慎ましいものだった。夫に早く先立たれてからは一人娘のミシェルを畑で働きながら育てた。ミシェルはマリーの言うことをよく聞き、村の農作業も手伝う素直で素朴な、どこにでもいる村の娘だった。しかし、13才の時、役所のお偉いさんの奥方とその娘ローザが村に一週間程滞在した時、年が近いためローザの遊び相手に選ばれた。ローザはブロンドの綺麗な長い髪と透き通るような白い肌を持つ美しい少女だった。彼女が村の娘の誰も着ていない上品でおしゃれな服や、ヒラヒラでお姫様みたいな服で村を歩けば、誰もが振り返った。今まで人参や、じゃがいも畑しか見たことのないミシェルは、ローザからこれまで行ったことも聞いたこともない都会の様子をたくさん教えてもらい、すっかり都会の虜になった。そして、ローザが帰る時、ミシェルは村の誰も持ってないような派手でキラキラした手鏡を貰った。
 ローザが帰った後のミシェルはマリーの言うことも上の空で、村の手伝いもあまりしなくなった。時間があれば自分の部屋のベッドに寝そべり手鏡で自分の顔を見ていた。そして、決まって「どうしてこんなに肌が黒いんだろう」、「目は小さいし、鼻はぺちゃんこだし、どうしてこんな田舎くさい顔に生まれたんだろう」と嘆いていた。マリーはそんなミシェルに「あなたは村の娘なんだから、鏡なんか見てないでお手伝いしなさい」と散々言い聞かしたが、その度に「私、こんな村で一生過ごすのなんてまっぴらだわ」と、取り合わなかった。それからしばらくマリーとミシェルの喧嘩は絶えなかったが、とうとうミシェルは17才になった時、マリーを置いて村を出て行った。
 それからマリーはずっと一人で暮らしてきた。時々村に出入りしている商人がミシェルの噂など聞かせてくれたが、「娼婦になっている」だの「マフィアの情婦になった」だの「顔や身なりも変えてしまった」だの、「刑務所に入れられた」だの「マフィアの抗争に巻き込まれて死んだ」だの、どれもろくでもない話ばかりだった。しかし、マリーはそんな噂話など信じず、いつかミシェルが帰ってきてくれると信じて夕暮れになると隣村へと続く道をずっと眺めていた。結局それは、マリーが死ぬ直前まで続いたが、ミシェルが戻ることはなかった。。

 皆が注目する中、その女はマリーの棺に花を一つたむけると、すぐに帰っていった。結局、なぜその女が現れたのかわからなかったが、マリーは優しかったから厄介もののあの女にも野菜か何か分けてやったのだろうということで落ち着いた。リンダの娘で10歳のアンナは、あの女が教会を出る時、涙を浮かべていたと主張したが、そんなの見間違いに決まっていると誰も取り合わなかった。
 女が教会を出た時、辺り一面霧が立ちこめていた。1メートル先も見えないような視界の悪さだったが、女は気にする様子もなくすたすたと歩きだした。数メートルも歩くと女は真っ白な霧に包まれ、やがて見えなくなった。


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