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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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長袖の青ばら、僕ら模様

17/04/15 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:5件 クナリ 閲覧数:893

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 両親が離婚したのは、僕が小学三年生の時だった。
 僕の父はタバコで、いわゆる根性焼きというやつを、酔っ払うと僕や母によく敢行していた。
 タバコの火は大変な苦痛だったが、僕は実際よりも大げさに痛がって見せることで父の追い打ちを防いでいた。それが僕なりの処世術で、自分なりにうまく人生を生きていると思っていた。

 僕の家は木造の古いアパートで、隣には僕より三つ年上の女の子が住んでいた。
 僕はその女子とそれなりに仲良くなり、小六の頃には、流行りのお菓子についての情報交換などをよくやっていた。
 彼女は安くて美味しいお菓子をスーパーで発見してくるセンスがずば抜けており、僕は一お菓子好きとして、彼女のセンスに畏敬の念を抱いていた。いわく、
「私がお菓子を見つけ出すのではない。お菓子が私を呼び寄せるのだよ」
だそうだ。
 髪が長く、色白で、長いスカートがよく似合った。涼しげで穏やかな顔立ちで、でも少し変わった性格。男なら、大抵の奴が好きなってしまうんじゃないかと思った。実際僕も、いつか彼女に恋愛感情を持つのだろうな、と予感していた。
 しかし僕が中学に上がり、思春期を迎えても、彼女に好感以上の気持ちは生じなかった。初恋は、同じクラスの別の女子で経験した。
 それでも、僕と彼女の、お菓子を通じた交流は継続していた。
 そして父の根性焼きも、まだ続いていた。

 高校受験シーズンの夏を迎えた僕は毎日、勉強に悪戦苦闘していた。
 必然的に、父に向ける意識が目減りした。根性焼きへのリアクションも控えめになった。
 それはどうやら、父に対して大きな寂寥感を抱かせたらしい。
 夏休みの夕方、自室で勉強していると、酔った父が部屋に来た。
「何? 父さん」
 長袖のシャツの下に鳥肌が立つ。
「平然としやがって。母さんはお前のせいで出て行ったのに」
「……何?」
「痛がるお前を見ることに耐えられなくて出て行ったんだ。優しい女だったからな。お前があんなに痛がるから、……」
 僕はその時、自分の勘違いを思い知った。
 僕は、処世術など身につけていなかった。ただできるだけの我慢を、できる範囲でしていただけだった。それがこの日、限界を迎えた。
 ずっと父が許せなかった。僕を傷つけることも、勝手に寂しがっているのも許せなかった。でも父親だから我慢していた。父は僕に対し、我慢なんてして来なかったのに。
 僕は押し入れからマフラーを取り出すと、父の首に巻いて絞めた。
 二人とも床に倒れこんでも、構わずに絞め続けた。
 するといきなり第三者の手が横から割り込んで来て、僕からマフラーを取り上げた。
 彼女だった。
 彼女はせき込む父に、
「けがはないみたいですね。救急車とかが必要なら、自分で呼べますね。息子さんは、今晩うちで預かります」
と告げて、僕だけを自分の部屋に連れて行き、ドアに鍵をかけた。
 決して見られたくない場面を見られ、僕は混乱の極致だった。でも、彼女は驚くほど落ち着いていた。
 テーブルの上には、近所のケーキ店の箱が置かれている。
「たまにはいいお菓子を分かち合おうと思って、買ってきたの。そしたら、物音が聞こえたから」
 彼女は紅茶を入れ、ケーキを取り分けた。
「……ずっと僕を見守っててくれたんだね。だからあんなにすぐ来てくれた。三つも離れた女子が、お菓子の話のだけに僕と仲良くし続けるなんて、変だもんね」
「だって君、夏でも長袖なんだもん。昔から気になってたの。でも、確証はなくて」
 暴行があってもなくても、質問すること自体が僕を傷つけると思ってくれたのだろう。
 ケーキは、スイカのモンブランだった。えらい変わり種だったが、えらく美味しかった。さすがだと思った。
「今日、両親とも出かけてるの。泊まっていきなよ」
 その申し出には正直言って、ドキリとした。けれどそれが、僕を一人にしないためだということは分かった。
 僕らは、隣同士の布団で眠った。
 寝入る前に、彼女には恋人もいないし、結婚もしないつもりだという話を聞いた。
 彼女が多くの男から言い寄られているのは知っていた。
 僕がずっと近くにいてあげたいと思った。

 翌日、心配そうに見送る彼女と別れて、僕は自分の家に戻った。
 起きていた父が一言、「悪かった」と言った。
 生まれて初めて聞いた謝罪だった。



 異性間の友情があるのかどうか。よく、あり得ないと言われる。

 一足早く社会人になった彼女と、さすがに夜二人きりで会うことは控えている。
 以前人から「ほら見ろ、女として意識してるんだ」と言われた。当然だ、女の人なんだから。

 今週末、僕が発掘したチョコレート桜餅を持って会いに行く。
 きっと彼女は、大抵の男が恋愛感情を抱いてしまいかねない微笑みを、安心しきって僕に向けてくれる。


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このストーリーに関するコメント

17/04/15 まー

物語で描かれる男女のこういった距離感は大好きなので読んでいて気持ちよかったです。

“異性間の友情があるのかどうか”
実際どちらの考えのほうが多いんでしょうね。特に若い世代は異性間の友情は普通にあるものと柔軟に考えているように思えます。

17/04/16 文月めぐ

こんにちは。物語拝読いたしました。
「僕」と「彼女」の関係がとてもさっぱりとしていて気に入りました。
チョコレート桜餅、食べてみたいです。

17/04/17 夏日 純希

「僕」が好きになったのかどうなのか、で、「彼女」はどうなんだい。
焦れったい……感じが楽しい作品ですね。

チョコレート桜餅は彼女の合格点もらえるんですかね。
いや、きっとどっちだっていいんでしょうけれど。

17/04/18 治ちゃん

読んでいて面白いです。異性間の友情があるのか?長く続くかは別としてあるように思います。当然異性としての好意はあるはず。だから会いたいはず。でも関係は発展しないか、発展しないようにしているか、お互いに思っているはず。こういう人の繋がりは大事だなと思います。

17/05/25 光石七

二人の距離感がいいですね。
根性焼きや父への怒りの爆発といった深刻な描写もあるのですが、爽やかで温かな読後感でした。主人公の仄かな胸の痛みと苦笑も感じつつ。
素敵なお話をありがとうございます!

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