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本宮晃樹さん

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化学熱力学通勤

17/04/13 コンテスト(テーマ):第103回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:502

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 満員電車の内部エネルギーU=乗員数+エンタルピーΔH ……@
 つまりこういうことだ。上述の式@で俺の感じているストレスがどれほどのものか、一目瞭然であろう。もちろんこれは簡略化にすぎる。乗員数はさらに以下の成分に分解できる。
 乗員数=(新入大学生数ΔG×新社会人数ΔK)の自乗 ……A
 ただしΔGはごみ、ΔKはクズの意味だ。A式が掛け算なのを考慮されたい。連中の不快指数は単純な加算ではなく、乗算になる。つまりあいつらがいればいるほど、電車内のストレスは指数関数的に上昇するのだ。
 一例を挙げよう。ΔGことぴかぴかの大学生一年生たる諸君のふるまいは、おおむね次の通りである。日本アルプス縦走以外に使い道のなさそうなでかいザックで全方位へ攻撃する、講義をサボっただのバイト先の先輩に腹が立つだのといった愚にもつかない会話、音漏れにより垂れ流されるアニソン、その他いろいろ。
 ΔKだって負けちゃいない。初日から残業させられた自慢、社会人はつらいよ自慢、学生と社会人の心構えに関するひとくさりのお説教、その他いろいろ。
 これらを総合すると、満員電車内に蔓延する病理はほんの一部――すなわちΔGおよびΔKが担っていると結論できる。

     *     *     *

 次に外部エネルギーであるエンタルピーΔHについては、さらに以下の成分に分解されるであろう。
 エンタルピーΔH=(ΔGの脳足りん指数×ΔKの傲慢さ)の三乗 ……B
 エンタルピーとは閉鎖系におけるエネルギーの移動量である。これを電車内の事例に敷衍すれば、たとえば駅の乗り降りの際、入り口付近にかたまっているΔGが道を開けないかとか、ΔKの「俺は/あたしは社会人だ!」という確固たる意志――しばしば単なるいきがりと同義の――の発露とかで、容易にかつ大幅に上昇しうる。
 要するにΔGの交通妨害やΔKの怪気炎がスムーズな乗降を妨げることによって、内部エネルギーUがめちゃくちゃに高まるのである。ここでもまた主要因子がこの連中なのに留意されたい。

     *     *     *

 いよいよ実地での計算だ。例のごとくいつもの時間に駅へ滑り込む(途中から間に合わないと踏んで走ったため、少しばかり息が切れているのには目をつむってほしい)。
 洟たれのガキどもがうじゃうじゃいやがる! さあ、@〜B式を踏まえて計算するぞ。まずは目の前の大学生らしきガキ。熱容量はΔG=780,000 TJほどもある。俺を囲むように新社会人の女どもがぴーちくぱーちく、カセットの早回しみたいになにやらさえずっている。これはΔK=1,540,000 TJといったところか。三人いるので当然三倍だ。
 これで「乗員数」が算出できる。つまり、
 乗員数=(780,000×1,540,000×3)の自乗 ……C
 C式の値が天文学的なそれになっていることに留意。そう、この時点で内部エネルギーUは無限大に発散してしまっているのだ。この調子だとエンタルピーΔHも似たようなものだろうから、最終的に大学生の洟たれと新社会人のいきったガキが織りなす満員電車のストレス値は大意、次の通りとなる。
 U=∞×∞ ……D
 聞いただろうか諸君。無限大の自乗とは! もはや哲学の領域である。俺が朝っぱらから深淵な抽象的思考をしているかたわら、ガキどもは仮借なくリュックを押しつけ、小鳥のようにさえずり、あげくに鋭く尖ったバッグの角でボーリングしてくる始末。
 なんというすさまじい熱エネルギーが渦巻いていることか。ところでとてつもなく狭い空間にぎっしりなにかが詰まっているというこの状態は、超新星爆発後の残りかすにどこか似ている。そうとも、満員電車にガキどもが加わることによって、電車内は中性子星並みの密度になるのである!

     *     *     *

 白鳥座X1だかなんだかではなしに、ほかでもない地球上で中性子星に匹敵する重力を体験できるとは、日本人は実に恵まれている。どうりで科学技術先進国になれるわけだ。自信を持って断言するが、近いうちに重力理論の大家が大勢、日本列島から輩出されるだろう。それも象牙の塔からではなく、そこらの中小企業から。
 われわれは科学立国に貢献しているとして、ΔGやらΔKやらを許すべきなのだろうか? あまりの高温・高圧のせいで原子核から電子がはぎとられてしまうような、こんな異常な空間を作り出した連中をのさばらせておくべきなのだろうか?
 断じてちがう。俺はついに決心した。
「やいガキめら。いまからきさまらは後悔するだろう。俺と同じ車両に乗り合わせたことをな」
 とかなんとか啖呵を切ることをじゃない。
 そうする代わりに車通勤に切り替えたのだ……。


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