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黒丞さん

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春は別れの季節でしょう

17/04/11 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 黒丞 閲覧数:215

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「あなたとはもう一緒にいられないわ…。」
青天の霹靂。とは、まさにこのことで、小春日和の突き抜けるような青空が眩しい今日、彼女から言い渡されたのは突然の別れだった。
「どうして?」
ぼくは彼女が出してくれた、いちごがちょこんと座るショートケーキをフォークで突きながら聞き返した。
「……そういうところよ。」
どういうところだよ。「そういうところ」が気に入らないのはわかったが、それ以外は何一つとして理解できなかった。
「あっそ。」
めんどうくさい。その気持ちの方が彼女の理由を知るより優ってしまっている自分も大概かもしれないと思いつつ、白い生クリームを一口口に含んだ。
「…あま。」
頬杖をつきながら、ケーキの感想を口にするぼくを横目に彼女は、アイスコーヒーを一気に飲み干してグラスを机に置いた。がらん、と空間を無くした氷が音を立てる。
「じゃあ、そういうことだから…。」
彼女はそう言うと立ち上がり、颯爽と歩いたかと思うとリビングを出る扉に手をかけて動きを止めた。
不審に思いながら、彼女に目をやると、曖昧に笑いながらこちらを見ていた。暫くして聞こえてきたのは、少し泣きそうな女の声。
「止めてくれないのね?」
「…止めてほしいわけ?」
何とも勝手な言葉に苛立ちを隠せず、白い皿の縁をフォークで軽く叩きながら、返事をした。その返答に女も男に愛想を尽かしたのだろう。そのまま何も言わずに出て行ってしまった。
部屋には、一口減ったショートケーキと水分を出し始めた氷の残るグラスと、不機嫌そうな男が残された。
何とも後味の悪い別れだと思った。口直しをするようにケーキの上のいちごを頬張る。甘酸っぱい香りが鼻に抜けて、男を少し感傷的にさせた。
「あっけないな…。」
ぽつりと呟いた一言は部屋に溶けて、より一層一人を際立たせた。
その時、ピンポーンとこの空間に似合わない間抜けな音が響いた。
カメラ付きのインターホンの映像に目を凝らすと、先ほど出て行って女が立っているのが見える。
「…はあ」
静かに溜息を吐き出し、立ち上がり、とりあえず玄関を開けて彼女を見下ろした。
「何…?今しがた僕たちは別れたのではないでしょうか?」
他人行儀に嫌みたらしく彼女に聞いてやった。彼女はふるふると震えながら、今にも溢れそうな雫を目に溜めてぼくを見上げるとこう言った。
「…今日エイプリルフールだよ?」
そんなこと知っていた。彼女が何かぼくに嘘をつこうとしていたのも、それがどんな話なのかも、ぼくは全て知っていた。だから、今日のことは事前に何が起こるかまで予想済みだった。
「だから…?」
彼女に冷たく言い放つ。
「え?…だから、あの、ぜんぶ、うそだよ?」
「へえ。」
しかし、生憎ぼくはその手の嘘が大嫌い。そんなことをエイプリルフールだからって言えてしまう女も嫌なわけだ。そうつまり今日のことでぼくはこの女に愛想が尽きたと言える。
「まあ、どうでも良いけど、次の男にはそういう嘘吐かない方が良いんじゃない?」
ぼくは笑顔でそう言うと、戸惑う彼女を一人置いて、玄関を締めるとリビングに戻った。
残りのショートケーキを一気に口に入れる。穏やかな甘さが口いっぱいに広がった。
別段珍しくも自分の恋愛を振り返り、実にくだらないと彼は笑った。この世界にスイーツより甘い話なんてないのさ、なんてね。


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