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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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『たまらん箱』がもたらしたもの

17/04/11 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:6件 霜月秋介 閲覧数:867

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 高校三年の浦須間太朗は、友人を自室に招き入れて雑談していた。
「お前の部屋、ゲームもなければテレビも無いし、つまらねえな。そろそろ帰るわ」
 そう言い放って帰ろうとする友人に、太朗はとっさに「危ない!」と叫んだ。友人の足元に、カメムシが這っているのに気付いたのだ。太朗の呼びかけにより、なんとか友人はカメムシを踏まずに済んだ。

 その夜。寝ている太朗の枕元に、一匹のカメムシが飛んできた。そのカメムシが出した強烈な匂いにより太朗は目を覚ました。すると目の前に、ダークブラウン色のスーツを身に纏った少女が立っていた。全身からカメムシのような異臭を放っていた。
「私はカメムシの妖精、カメコです。先ほどは危ないところを助けていただき、有難うございました。そのお礼に、あなたを私の住む城にご招待いたします。おもてに車をご用意しております」

 太朗は家の前には高そうなリムジンと、執事のような男が二人立っていた。その二人に太朗はハチマキで目隠しをされ、リムジンに乗せられ、リムジンは走り出した。道中ずっと、太朗は車内を漂う異臭に苦しめられた。そしてようやくたどり着いた城からも、強烈な異臭がした。早くも帰りたくなったが、帰り道がわからないので諦めた。

 城の中に案内され、太朗はカメコの父親と対面した。見た目は全然、人間と変わらなかった。
「ようこそ、カメムシの王国へ。私はこの城の主であり、カメコの父、カメオと申します。うちの娘を助けていただき、誠に有難うございます。これは私からの、ささやかな気持ちです」
 カメオの側近の男は太朗に、太朗の胴体ほどある大きな箱を手渡した。その包みからも強烈な異臭がしたが、折角くれたものを返すのも申し訳ない感じがして、太朗はとりあえず受け取った。
「その箱は、蓋を開けた者に幸福をもたらす『たまらん箱』です。」


 家に帰ってから、太朗はおそるおそる『たまらん箱』を開けた。すると開けた瞬間、白い煙が太朗の視界を覆った。煙が晴れると、太朗の部屋にとんでもないことが起こっていた。
 五十インチの液晶テレビに、最新型のテレビゲーム、パソコン、タブレット、スマートフォン、ハイレゾ対応コンポ、ふかうかのソファ、ふわふわのベッドなど、前から太朗が欲しがっていたものが太朗の部屋に一気に現れた。
 太朗は快適な時間を過ごした。ゲームし放題、ネットサーフィンし放題、音楽聴き放題。なにか欲しいものがあれば、イメージしながら『たまらん箱』を開ければ、お金でさえもすぐに出てくる。この『たまらん箱』があれば一生困らずに生活していける。太朗はカメムシに感謝した。


 それから月日が流れ、太朗は三十歳になった。社会に出て働くなどということはなく、『たまらん箱』によって満たされた毎日を過ごしていた。外に出ても、身に付着した『たまらん箱』が発する異臭によって周りから煙たがれる。それを理由に、外に出るということをしなかった。毎日が同じことの繰り返し。次第に心も脳も体も、動きが鈍くなっていった。見た目はずいぶんと老けていた。

 そんな暮らしを続けていたある日突然、『たまらん箱』は突然消えて無くなった。太朗は青くなった。両親は既に他界し、自分が働く以外にお金を手に入れる方法が無い。あわててバイトを始めたが、お金がなかなかたまらない。欲しいものがすぐ手に入る生活に慣れてしまっていたので、金が入ればすぐ、欲しい何かを買うために使ってしまう。我慢するということが出来なくなっていた。ヤミ金に手を出すようになり、やがて太朗は多額の借金を抱え、行方をくらました。



「人間とは、愚かな生き物だな…」
 カメムシの王国。主、カメオは手に持った『たまらん箱』を見つめ、薄笑いを浮かべながらそうつぶやいた。


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このストーリーに関するコメント

17/04/12 浅月庵

霜月秋介様

作品、拝読致しました。
カメはカメでも......カメムシですか!
匂いの話が出るたびに笑ってしまいました笑
堪らんと貯まらんがかかっているのに
最後まで見抜けなかったのでハッとさせられました。
面白かったです!

17/04/13 霜月秋介

浅月庵さま、コメント有難うございます。

どんな話を書こうか考えてる最中、手元をカメムシが這っていたのを見て「これだ!」と閃きました。

17/04/15 クナリ

乙姫の玉手箱も「なんでアレくれたんだろう」という様々な解釈がありますが、それを上回る理不尽ぶり!
カメムシから始まる発想も、意外で面白かったです。

17/04/15 霜月秋介

クナリ様、コメント有難うございます

私は玉手箱を乙姫の嫌がらせと解釈した上で、この話を書かせていただきました。
今は、人間をダメにするクッションとか、いろんな快適グッズがありますよね。それを参考にさせていただきました。嬉しいお言葉を有難うございます。

17/05/02 滝沢朱音

カ…カメムシ…たまらん箱…( *´艸`)ヤラレタ
たまらん箱に謎の副作用?の臭いがあるという
設定が、カメムシと連動してていいですね!
たとえ束の間の夢でも、たまらん箱で思うまま
快適生活を送ってみたい…と思った私は、
引きこもりの素質十分かもしれません…笑

17/05/06 霜月秋介

滝沢朱音さま、コメント有難うございます。

こんな箱をもらってしまったら、引き込まらずを得ないですよね。このたまらん箱は日頃、人間に駆除されている復讐かもしれませんね。

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