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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天野ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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女神様のお弁当

17/04/10 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:4件 あずみの白馬 閲覧数:740

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 15年ほど前、僕は青春18きっぷで普通列車を乗り継いで、ひとり旅に出ていた。北海道の稚内、北の端を見てみたかったのだ。
 しかし、ダイヤ通りなら山形県の酒田駅で朝食のはずが、列車の遅れのせいで昨夜から何も食べることが出来ず、酒田駅に着いた頃には12時過ぎになっていた。

「えー、乗り換えのお客さまー! 秋田行き普通列車は5分後の発車でーす! ご乗車になってお待ち下さーい!」

 30歳ぐらいの駅員さんが乗り換えを促す放送をしている。やたらと語尾を伸ばすのが気にかかった。それにしても5分では食事もままならない。空腹のままあと2時間過ごすのか……。

「お弁当はいかがですかー?」

 天の助けだ! 早速駅弁を手に取る。販売員の、二十歳ぐらいのとてもきれいなお姉さんが女神様に見えた。早速「ササニシキ弁当」を買い求める。

「ありがとうございました♪」

 女神様の透き通るような声に見送られて、電車に乗り込むと程なく発車。ロングシートの車両が来たが、背に腹は変えられない。早速包みを開けると梅干しご飯に焼きジャケ、海老フライなどのシンプルな構成。あっと言う間にかっ込んでしまった。

 お腹もふくれて、窓の外を眺めると日本海が見える。晴れ間も見えて来て、ふと思った。滅多に食べられない駅弁なのにもったいないことをした。もっと味わって食べれば良かったと。

 今度はゆっくり食べられる時に来ようと決め、次の機会を探ることにした。

 ***

 あれから15年経ち、ようやく酒田駅に再訪する機会があった。日本海の景色が久しぶりに見たくなり、観光列車の「きらきらうえつ」に乗りに行くことにした。

 午後4時前に着いて早速駅弁の立ち売りを探す。しかし、いない。駅の中にいるのかと思って一旦改札を抜ける。だがそれらしき人は見当たらず、駅員に聞いてみた。

「あー、駅弁屋さんはー、10年ぐらい前にやめちゃったんですよー」

 残念……、もう食べられないと思うと寂しさがこみあげてきた。
 そういえば伸ばす語尾に聞き覚えがある。あの時の駅員だ。しかし歳をとったのか、白髪が目立ち始めている。私も人のことは言えないが、時間が経ったことを実感する。

 しばらく駅ビルの中をうろつく、コンビニ弁当やむなしか……、と思ったら、小綺麗なお弁当屋さんが見えた。カウンターには二十歳ぐらいのとても綺麗なお姉さんがいる。あの時の女神様にそっくりだ。僕は早速カウンターに向かった。

「こんにちは! 『ががちゃおこわ』はいかがですか?」
 シンプルで美味しそうなおこわのお弁当。しかも暖かいまま詰めてくれるという。僕はさっそく女神様から買い求めた。

「ありがとうございました♪」

 彼女の透き通るような声に見送られる。その声もあの時のようだ。僕は心の中だけ若返って、新潟行きの「きらきらうえつ」に乗り込んだ。

 早速包みを開けると、ほかほかの湯気が立つ。シンプルな塩味のある味付けがまた良い。日本海を横目に見ながらゆっくりと味わう。

 食べ終わって、余韻にひたっていると……、ふと気付いた。15年経つのに、同じ女神様からお弁当を買っていることに。

 あの駅員も僕も歳をとっているのに、女神様は変わらぬ笑顔で僕を見送ってくれた。もちろん女神様と言うのは比喩表現だ。しかし、彼女だけは歳を重ねた感じがまったくしなかった。

 思い過ごしか、それとも彼女は本当に女神様なのか……?

 いつかまた、酒田駅に行って真相を確かめたい。僕はその時まで、いや、ずっとあの弁当が味わえることを願った。


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このストーリーに関するコメント

17/04/11 石蕗亮

拝読致しました。
私にも土地勘のある内容でしたので感情移入しながら読みました。
旅と駅と食べ物は思い出の中でリンクしますよね。
私もまた行きたくなる紀行的な物語でした?

17/04/12 あずみの白馬

> 石蕗亮 さま
ありがとうございます。
旅と駅と食べ物、それぞれがつながる素敵なものだと思います。
テーマが「電車」なのに紀行文的なものが少ないので、敢えてこのように書いてみました。

17/04/12 まー

『ががちゃおこわ』、どんなんだろうとググってみました。(うまそう!)
漬物くらいでおかずもないみたいですけど、シンプルなぶんとてもおいしいのでしょうね。
なんだか小旅行を味わえた気分です。

17/05/23 あずみの白馬

>まー さん
 遅くなりすみません。コメントありがとうございます。
 旅で食べる駅弁は、やはり魅力的だと思います。そのあたりを感じ取って頂けたのは作者として嬉しいです。

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