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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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初めての電車

17/04/10 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:202

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 お腹の中にも、最近ようやく少し膨らんできたおっぱいの下にも、パンパンにつまっている言葉にしたい思いが父さんの顔を見ると出てこない。
 それは多分、私が自分と父さんの間に見えないガラスのついたてを作ってしまってるからだ。私の言葉でそのついたてはグシャグシャに砕け飛んで、私と父さんにいつまでも治らない切り傷を作るに違いない。だから、私は何も言えないんだ。私は膨らみきってもう吐き出さないと自分が壊れてしまいそうで、言葉にすることよりも、行動することを選んだ。

「陽子ちゃん?」
「聡おじさん?」
「あぁ、お父さんアメリカ出張だって?」
「そうなんです」
「寂しくってかけてくれたんだ。嬉しいよ」
「そんなんじゃないんです」
「正直な子だねぇ、変わらないね」
「電車に乗りたいんです、明後日の土曜日、空いてませんか」
「あぁ、大丈夫だよ可愛い姪っ子のためじゃないか。え、待って。電車って言った?」
「はい」
「それは、お父さんは知ってるのかな」
「知ってると思いますか?」
「わかった、会って話そうね」
「じゃぁ、いいです。一人で乗る」
「ちょっと、もう決めちゃったの?」
「もう、そうしないといられないんです、聡おじさん来てくれなくても、乗りますから」
「共犯者が欲しいの?」
「ううん。一人じゃ少し、不安なんだと思う」
「わかったよ。でも陽子ちゃんのお父さんってね、怒ると怖いんだよ」
「知ってます、誰に言ってるの」
「いやぁ、13歳の陽子ちゃんは知らないと思うなぁ」
「へぇ」

 私のお母さんは電車の事故で亡くなったらしい。だからお父さんは私を電車に乗せてくれない。学校の遠足も修学旅行も行けなかった。そんなのやだ、電車は安全な乗り物だよってどんなにみんなで説得しても、聞いてくれなかった。臨海学校行けもしないのに誰よりも泳ぐのが上手だった私。悲しいじゃない。修学旅行夜の出し物でコマーシャルの再現。楽しそうだったな。練習中私ずっと見てただけ。山本君と一緒にピザポテトのコマーシャルやりたかったな。酒井君とチャーミーグリーンでもよかったな。
 お母さんが死んじゃったのは運が悪かっただけ。車でも、飛行機でも、船でも、歩いてても、人は運が悪いと突然死んじゃうんだよ。電車はお母さんの敵じゃない、JRの職員さんも人殺しじゃない。運が悪かっただけ。電車は安全だよ。父さん。
 父さんに言いたいから、私は電車に乗る。そして言う。私、死ななかったよお父さんって。電車は人を殺すために走ってるんじゃないよって。そうすれば、お父さんを助けられる気がするの。ううん。私がお父さんに助けられるのかな。わかんないけど。何かが変わる、終わる、はずだよ。

「ボーイスカウトの頃にね、切符をグジュグジュにする遊びをやったよ。ジャンケンで負けると切符をグチャって握られるんだ。それで改札を抜けられるか、閉じちゃったら負け」
「六年生にもなって、そんな遊びしてたの?」
「え」
「ボーイスカウトって六年生からでしょ?」
「あぁ、いや、よく知ってるね。いや、僕はカブスカウトまでだったんだ。だから五年まで。いや、カブスカウトって言っても通じないこともあるからね」
「馬鹿にしてる」
「してないよ。大人でも通じないんだからさ」
「子供扱いしてる」
「13歳はまだ子供だよ」
「もう子供産めますけど」
「もう」

 土曜日聡叔父さんはオシャレもせずに普通のチノパンに紫のTシャツ一枚でやってきた。「変なプリント、そのTシャツ」って言ったら、「えー、これポールスミスなのに」だって。ブランド品ならオシャレってそのセンスがもう駄目なのに。
 聡叔父さんは何も言わずに一緒に電車に乗ってくれた。
「チェルシーはヨーグルトでいいよね」
 遠足でもないのに売店で飴まで買ってくれて。
 吊り革ってまん丸だね。テカテカ光って、顔が映りそうね。中吊り広告は週刊誌ばっかり。アナウンスは本当に中川家みたいなんだ。座ってる人みんなスマホ見て俯いてる。私の前のおじさんつむじが二個ある。
 
「これで、父さんと話せます」
「うん。一人で大丈夫?」
 父さん、電車は私を殺さなかったよ。終点から往復十八駅。誰も、死ななかったよ。
「無理かも。どうかな」
「また呼んでくれていいよ。明後日帰ってくるんでしょ?」
「うん」
「共犯者だから、一蓮托生、地獄まで二人連れ」
「スヌーピーとウッドストックみたいに?」
「あの黄色い鳥、ウッドストックって言うんだ。知らなかった」
「ふふ、ありがとうございました」
「可愛い姪っ子のためだもん、なんでもしてあげられるさ」
「じゃぁ、お小遣いください。百万円」
「うーん、五十年払いで」
「はい」

 
 


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