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若早称平さん

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大砂漠のマカロンタワー

17/04/10 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:2件 若早称平 閲覧数:606

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 彼がまず思ったのは国外でも仕事があるのかということで、続いて思ったのは面倒くさいなということだった。
 人間の願いを叶える天使というのが彼の仕事だった。仕事の内容としてはいつも通りだが、ただ一つ違うのは場所がアメリカ中部の砂漠のど真ん中であることだ。なぜそんなところに日本人が? 彼は少し戸惑いながら背中の羽根をパタパタさせ始めた。

 砂丘に朝日が昇る。東の空が鮮やかなオレンジ色に染まり、これが観光で見ているのなら、こんな状況でなければ涙が出る程感動していたんだろうな、とエリは思った。今の彼女にはなんとか今日をしのごうという思いしかなく、体の水分がないので涙も出ない。
 昨晩水筒の最後の一滴が尽きた。バスタオルで殺人的な陽射しを防ぎ、救助を待ちつつ数日をやり過ごしたがもう体力も限界だった。今日中に助けが来なければ多分死ぬだろうと思いながらエリは体力を温存すべくゆっくりと目を閉じた。
「伊崎エリ、二十五歳、自称冒険家で間違いないですか?」
 静寂の中、突然頭上から聞こえた声をエリは初め幻聴だと思って無視した。ああ、もう死ぬのか。そう思った。
「おーい、起きてますよね? 無視しないで下さーい」
 しつこく繰り返される幻聴に辟易し、渋々目を開けると半裸でくりくりの金髪の少年が宙に浮いていた。背中には白い羽根も見える。いよいよ幻覚も見え始めたか、エリが絶望を抱えながら少年を見上げると彼はにっこりと笑った。
「初めまして、天使です」
「お迎えが来たのね……」エリのその言葉は天使に向けられたものではなくただの独り言だったのだが、「近いけど違います。僕はあなたの願いを叶えにきました」と天使はそう答えた。
「願い?」
 五日振りにする会話に朦朧としていたエリの意識も晴れてきた。
「そうです。あなた去年のご友人の披露宴で死ぬ前にマカロンタワーを一人で食べたいとおっしゃってましたよね?」
 天使に言われてエリはその場面を思い出した。砂漠で遭難して死にかけている今では日本での日常が夢のようだった。
「というわけで……はい!」
 天使が両手を振るとエリの目の前に色とりどりのマカロンで飾られた高さ1メートル程のマカロンタワーが現れた。
「いやいや、え?」
 戸惑うエリとマカロンタワーを一陣の砂嵐が吹き荒ぶ。
「これだけ? 飲み物とかないの?」
「飲み物?」
「だってこんなの口の中の水分全部持ってかれるじゃない」
「そんなの知りませんよ。アンパンマンが牛乳持参で登場するの見たことありますか?」
 困った顔をする天使の例えはよく分からなかったが、話している間にどんどん砂まみれになっていくマカロンタワーを見ていてエリは思いついた。
「ねえ、これもう食べられないからさ、返品して願い事変えてもいい? 砂だらけじゃん」
「クレームはやめて下さいよ。でもまあ確かに喜んでもらえないと願いの叶え甲斐もないですし……。いいですよ、ただし次が最後です」
 天使がそう言うとエリの表情が初めて明るくなった。食べたいものを次々思い浮かべているだけで生きる希望が湧いてくる。
「イチゴパフェ大盛り!」
 エリの答えに天使がぷっと吹き出した。「なに?」とエリが訝しむと、
「やっぱりデザートなんだなと思いまして。……砂漠だけに」
「くだらなすぎて殺意が芽生えてきたわ」エリが拳を握る。
「元気そうじゃないですか。本当に死にそうなんですか?」
「皮肉なことにあなたのおかげよ」
 エリの不敵な笑みに本当に殴られるのではないかと危機を感じた天使はマカロンタワーを出した時と同じ様に両手を振った。今度は特大のイチゴパフェがエリの前に現れる。
「さあ、砂まみれになる前にちゃっちゃと食べて下さい」
 天使が言うまでもなくエリのスプーンはどめどなく動き続け、半分程彼女の腹に収まった時ピタリと止まった。
「しまった、アイスにすれば良かった」
 口の周りにクリームをつけた顔で天使を見たが、彼は呆れた顔で「もう無理ですよ」と眉をひそめた。

「ごちそうさまでした。なんだかんだ言ったけど感謝してます」
 器がピカピカになるくらい綺麗に完食したエリは天使に深々と頭を下げた。
「仕事ですから。でも喜んでもらえて光栄です。では」
 天使はぺこりと頭を下げ、そそくさと空へ舞い上がった。それにしても、と自分に向かって大きく手を振るエリとその横で砂まみれのマカロンタワーを見下ろしながら天使は首を傾げた。
「せっかく願いを変えていいと言ったのにどうしてここから出してくれって願わなかったのでしょう? やっぱり人間というのはよく分からない」
 独り言を呟く天使は遠くの空に小型の飛行機を見つけた。いつまでも手を振るエリと近づいてくる飛行機を交互に見ながら「ま、どうでもいいですけど」と、もう一度呟きパタパタと日本への帰路についた。


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このストーリーに関するコメント

17/04/10 まー

映像が特にイメージしやすいキャッチ―なタイトルですよね。思わず感心しました。
マカロンとかオシャレな物食べたこと無いんですけど、口の中パッサパサするんだろうなというイメージがあったのでやっぱあってました(笑)。おいしいんだろうなぁ。(水分があれば)

17/04/10 若早称平

まーさんコメントありがとうございます!
大体の内容とタイトルがまず浮かんでそこから設定とか合わせていった感じです!
マカロンは実は1回しか食べたことないのですけどめっちゃ喉乾きますよ(笑)

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