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風宮 雅俊さん

テーマに沿った物語を、どのくらいのレベルで書けるかな? と言う事で登録してみました。 アマゾンの電子書籍キンドルで作品出してます。こちらも宜しくお願いします。 ツイッター: @tw_kazamiya

性別 男性
将来の夢 世界一周の船旅で、船室に籠って小説を書く事
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最後の甘味倶楽部

17/04/10 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 風宮 雅俊 閲覧数:442

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 そのお店、丸の内のどこかのビルにあるらしい。ある者は屋上にある店だと言う。ある者は地下にある店だと言う。どちらが本当なのか、そもそもお店があるのか噂以上の事を知っている者はいなかった。
 そのお店には、こんな噂も流れている。
 女人禁制の会員倶楽部で同伴も許されない。勿論、ウエイトレスなぞ一人もいない。全てウエイターだけだ。何故なら女人禁制だからだ。
 会員になる条件は、臭わない事。店の秘密を守れる事。臭わないとは喫煙しない事は当然ながらスーツに残ったタバコの臭いもダメ。香水もダメ。
 店に、カメラやレコーダーの持ち込みは禁止。携帯電話やスマホの持ち込みも禁止。周りの客の味わう至高のひと時を邪魔するのは許されないからだ。

 なぜ客は店内でのスイーツに拘るのか?コンビニやデパ地下のスイーツでも十分に美味しいではないか。と、言う疑問を持つ段階でその人はアウトだ。寿司に例えるなら、板前が握る寿司を出て来た瞬間に食べるカウンター席での味と、割引特価になったスーパーの寿司の味が同じだと言っている者に理解できる筈がない。
 出来立てのスイーツの格別さは、使われているフルーツの瑞々しさで分かる。切れ味鋭い包丁で切られたフルーツは切られた事実に気付く事なく、そこにある。
 生クリームホイップのふわふわ感も一緒だ。ウィスクの手を止めた瞬間からホイップは元の生クリームへと戻り始める。変化がゆっくりであっても出来立てのホイップに勝る口当たりは存在しないのである。
 ホイップと言えば、伝説のカスタードクリームのホイップ。濃厚な味わいと口の中での広がりが格別だ。しかし、メニューにも載らないのは特殊な装置を使って作っても一時間ともたないからだ。

 そう言う店であれば、行列の出来る店になるのは間違いない。しかし、目立つ事は許されない。何故なら、最後の甘味俱楽部だからだ。
 甘味倶楽部音の設立の目的は単純明快だ。『美味しいスイーツを、全身全霊で味わう事が出来る店に行きたい』たったこれだけだ。だが、これが非常に難しい。否、不可能だったと言うべきだ。
 なぜ、不可能か? 一人でスイーツの専門店に行ってみれば良い。一人が怖いなら彼女といけば良い。
 まず、店から漏れ聞こえる話し声。窓越しに見える客の姿。普通の感覚を持っていれば分かる筈だ、自分が場違いの存在だと。それを押し切って、店に入る事が出来た武者がいても・・・・
 店の扉を開け入った瞬間に、店内に響いていた談笑が沈黙へと変わり、一斉に集まる視線。そして、抗議の沈黙。
 ウザ・ウザ・ウザ・シネ・ウザ・キモ・ウザ・・・・、攻撃的な心の叫びが店内から洪水の様に押し寄せてくる。
 味の違いが分かる者は、頑張れてもここまでだ。鈍い奴なら構わず注文し食べる事も出来るだろうが、鈍い奴は味覚も鈍い。そう言う奴はスーパーの見切り品でも十分に満足する。

 設立当初の甘味倶楽部は、支部によって違いがあり同伴を認めていた倶楽部もあった。準会員証を発行するところもあった。どちらも末路は同じだった。
 サプライズや罪滅ぼしで奥さんを連れてくる。二回目はせがまれて連れてくる。三回目は奥さんの友人が多数付いてくる。そして、四回目からは男性が入店すると、店内に響いていた談笑が沈黙へと変わり、一斉に集まる視線。そして、抗議の沈黙。攻撃的な心の叫びが店内から洪水の様に押し寄せてくる。
 数々の支部が圧倒的な物量の前に飲み尽くされて行った。そして、唯一残ったのは一切の妥協を許さない支部だった。

 しかし、唯一残った支部にも存続の危機がある。ある日、奥さんにバレた有力会員が同伴で入店を試みた時があった。店先での店員の丁重な対応に、にこやかに圧力を掛ける有力会員の攻防は、店の存亡と面子の戦いへと発展し・・・、有力と言っても多勢に無勢である。独りの我儘を認めるほど他の会員の力は弱くはない。と、言う事だ。

 そして、危機を乗り越えたかに見えたが、思わぬ事で陥落してしまった。それは、パテシエの退職だった。
 こうして、周囲を気にせず至高のスイーツを味わえる場所はなくなったのであった。


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