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17/04/10 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 あやと穂月 閲覧数:335
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「ねぇ。電車に乗って海に行こう」白いワンピースの背中を見ながら、僕は思いついたように言ってみた。「君は電車が好きだねぇ」振り向きながら答える彼女は、少し呆れた表情を浮かべている。けれど、その足は駅へと向かっていて、そんなところが彼女っぽいって僕は思った。券売機の前で肩を並べて、小銭がいくら必要なのか、あぁだこうだと言いあった。白色が劣化したのか、それとも元々くすんだアイボリー色なのかよくわからない券売機に、チャランチャランと100円玉を入れていく。出てきた2枚の切符を失くさないようにズボンのポケットにねじ込むと、「すぐ使うでしょ」と、これまた呆れた声で指摘された。君へと切符を渡す。指先が、かすかに触れた。ホームに入るカボチャ色の電車がワンピースの裾を持ちあげて、目に入ったふくらはぎの白さに、僕の指先が熱を増した。ガラガラに空いた車内で、2人横向きに腰を下ろす。やけに濃い緑色の座席がギシっと1度軋んだだけで、他に音は何もない。たったそれだけで、まるで僕らのために電車が走るような、そんな不思議な感覚に陥る。流れる山々とあわせるように、つり革の白い輪っかが揺れている。あと10秒……、あと5秒。僕の心がドクドクドクと急いていき、遮断機のない踏切で君と肩がぶつかった。「本当。君は電車が好きだね」改めて君が言う。今度は僕が呆れながら、「違うよ」と小さく反論した。「じゃあ、海だ」過ぎ去る緑を見つめる君に、僕は静かに苦笑した。
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「ねぇ。電車に乗って海に行こう」
白いワンピースの背中を見ながら、僕は思いついたように言ってみた。
「君は電車が好きだねぇ」
振り向きながら答える彼女は、少し呆れた表情を浮かべている。
けれど、その足は駅へと向かっていて、そんなところが彼女っぽいって僕は思った。
券売機の前で肩を並べて、小銭がいくら必要なのか、あぁだこうだと言いあった。
白色が劣化したのか、それとも元々くすんだアイボリー色なのかよくわからない券売機に、チャランチャランと100円玉を入れていく。
出てきた2枚の切符を失くさないようにズボンのポケットにねじ込むと、
「すぐ使うでしょ」
と、これまた呆れた声で指摘された。
君へと切符を渡す。
指先が、かすかに触れた。
ホームに入るカボチャ色の電車がワンピースの裾を持ちあげて、目に入ったふくらはぎの白さに、僕の指先が熱を増した。
ガラガラに空いた車内で、2人横向きに腰を下ろす。
やけに濃い緑色の座席がギシっと1度軋んだだけで、他に音は何もない。
たったそれだけで、まるで僕らのために電車が走るような、そんな不思議な感覚に陥る。
流れる山々とあわせるように、つり革の白い輪っかが揺れている。
あと10秒……、あと5秒。
僕の心がドクドクドクと急いていき、遮断機のない踏切で君と肩がぶつかった。
「本当。君は電車が好きだね」
改めて君が言う。
今度は僕が呆れながら、
「違うよ」
と小さく反論した。
「じゃあ、海だ」
過ぎ去る緑を見つめる君に、僕は静かに苦笑した。