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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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空砲より実弾に撃ち抜かれるということ

17/04/09 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:365

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 馬鹿に付き合うと馬鹿な目に合うから、馬鹿とは付き合うなと、父さんに言われて育ったのに。
 教訓というものを、耳の奥まで届けたいのなら、自身の途上も道行きも誠実に舗装すべきで。
 それができていない人間に、人の耳の奥まで届く教訓めいた言葉など装填されることもない。
 父さんの言葉は、いつも空砲。空砲で撃ち抜かれることに慣れてしまった息子の僕は、言葉の実弾に打たれ弱い腑抜けになってしまった。
 気付いた僕は、腑抜けを治すために、馬鹿と付き合う。

「だってよう、火事場の馬鹿力ってんじゃんよう」
「だから?」
「だからぁ、電車に牽かれるかもって思えばボルト越えんじゃんねってことよ」
「馬鹿かよ、あの線路と砂利だぞ」
「いんやぁ、スパイク履いてると案外いけるんだよ、前もって砂利はとんぼかけとけばね」
「やったんかい」
「やってみたから言ってんじゃん」
「迷惑な奴、切符売ってもらえなくなればいいのに」
「そうなりゃタダで乗れるじゃん」
「馬鹿」
「なーあ、撮影係やってくれよう。動画で絶対がっぽりだって。ボルトを超えてみた、タイトルこれね」
「犯罪行為で広告料もらえるわけねーだろ、馬鹿かよ」
「じゃぁ、金はいいよ、兎に角、俺がボルトを超える瞬間を撮影して欲しいんだよ」
「お前百メートルタイムなんぼだっけ?」
「十秒ゼロ九、追い風参考」
「馬鹿過ぎて笑えるわ、お前」
「電車って田舎のローカル線でも時速九十ぐらい出してるって、百メートル四秒ジャン、わかってるの?」
「リミットはずれれば普段の何倍の運動能力が出るか、一人で箪笥と三人の子供抱えて火事場から出てきた母ちゃんもいるらしいし」
「馬鹿だね」

 馬鹿はなんで馬鹿でいられるのか、考えて考えて、僕はカメラの三脚をネットオークションで落札する。届いた品物にポストイットで落札ありがとうございますの文字が綺麗でとても気分がよかった。この出品者さんが馬鹿ならいいのにと思った。僕はこれからの人生馬鹿としか付き合わないことにしたからな。馬鹿は、誰かが昨日までに得てきた何かをすり抜けて寸時に立つ。馬鹿は、電車に牽かれて死ぬことすら、体験で重ならなければ恐れないんだ。それはとっても、馬鹿だけど、知りもしない死の恐怖や死の痛みを知ったかぶりするよりよっぽどいいような気がするよ。あの馬鹿は電車に牽かれるかもしれない切迫感で、ボルトを超えるつもり。馬鹿過ぎる。過ぎた馬鹿はなんだかとっても、爽快だ。僕も、馬鹿になりたい。

 直線百メートル、スプレーでスタートとゴールに白線。丁寧に何度もとんぼかけても、誰にも注意されない田舎の無人駅手前。線路わきにガードレールもフェンスもない。今の季節には菜の花が黄色を視界に点々。
 馬鹿は勝負ジャージに、上のTシャツには馬鹿のオカンの刺繍で「ボルトさんお疲れさま」過ぎた馬鹿は面白いけどオカンの馬鹿はちょっと笑えない。おとなしく美味い弁当作って、親父の暴力に耐えて泣いてればいいのに。
 僕は何を考えていたかというと、結果を今想像することは未来をこねている神への冒涜だろうってこと。なにも、先を想像せずあの馬鹿を撮影すること。ストップウォッチを押し忘れないこと。
 踏切の音、猫、カエル、カラス、朝の通勤を捨てて馬鹿の見物の人、どうして死ぬからやめておけとは言わないんだろう。
 猫とカエルとカラスと同じように馬鹿を見物するおっさんの目玉はガラス玉のように透き通って世界を諦めていた。やれやれと僕はアンパンをかじる。こんな美味いパン作る人がいるなら、世界は大丈夫だと思う。
 三脚、カメラの中で手を振る馬鹿。スマホの動画で、ストップウォッチのタイム。お願いだから四秒で血しぶきに塗れませんように。
 父さん、馬鹿に付き合って、今日僕は、あなたにもらった腑抜けの魂を、なにかと交換するつもりです。
 馬鹿は日の丸のハチマキ、朝の風になびかせて笑ってますよ。僕とあの馬鹿に、明日の風は吹くのでしょうか。

 都会では電車は人身事故で止まることが常的で人は気にも留めないそうですね。
 ここが東京ならよかったのかな。ねぇ、父さん。電車の音がします。馬鹿は線路の上でクラウチング。僕の右手に持たされたピストル。このピストル、空砲じゃない。


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