リアルコバさん

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17/04/09 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:189

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ふと刺すような視線を感じた先は、隣の車両の手前側のドアあたりではなかろうか。
眠たげな眼をさりげなく向けるが、そこにはスマホを見る若者と子供を連れた若い母親、何人かのサラリーマンが立っているだけで、感じた視線の余韻を残す者は見当たりはしない。
(ふうまたか・・・)この過敏に働く神経が作動したときは気をつけたほうが良い。

俺の仕事はブローカー。名刺には大層仰々しく《流通コンサルタント》なる職業を書いているが、依頼者の注文に応じてあらゆる商品又は商品らしきものを用意し、報酬を得ている。商品らしきものと云うのは、例えば人材派遣、平たく言えばコールガールの派遣である。世の中には好色家でありながら自信が著名な為、世間一般の遊び場へはいけない方々が数多くいるものだ。そんな方々に夢の一夜を与える仕事、いやこれは自分でも笑えるキャッチだが、昔風に言えば女衒の一種だろう。

視線が気になったのは南浦和の駅だった。本来なら目的地の新宿は赤羽で埼京線へ乗り換えれば直ぐだが予定を変更せねばなるまい。いくつかの駅でトラップを仕掛け、尾行者ならまかなければいけないし、ただの思い違いであるとも確認しなくてはならない。
赤羽駅を過ぎ、田端駅でホーム反対側の山手線外回りに乗り換えてみた。
バラバラと降りてきた隣の車両からの一段に不審な視線はない。当たり前だ、向こうもプロなのだ。

こんな事が仕事になってしまったのは、世の中がまだバブルの頃、政治家秘書の友人の手伝いをしたのが切っ掛けだ。当時は不動産も転がせるし、絵画や骨董、刀剣など真贋も評価も曖昧な取引で利ザヤを稼ぐ手法を覚えた。そこで社会が表裏一体であることを知り人脈も増えたが、景気の低迷と世間の求める透明化と云うやつで仕事は減り、今の仕事がメインとなってしまった情けない話である。

10;30分、京浜東北線はこの時間帯から快速運転になるので乗り換えるのに不自然はない。問題はこの先、自然に見えるのは西日暮里での千代田線乗り換えなのだが、車内とホーム上ではなんとも確認が難しい。
西日暮里で一度ホームに降りて乗り換える素振りを見せ、思いついたようにまた山手線の車内に飛び乗った。
慌てて車内に戻ろうとした男一名がホームに取り残されていた。

俺をつけ回すとすれば2種類の組織である。ひとつは警察。クライアントになんらかの疑惑がある場合その別件逮捕に利用するため俺に張り付く。
もうひとつはヤクザ。元々は彼らのシノギであったこの仕事だから、今の俺はシマ荒らしという事になる。
そしてその両方に何度か痛い目に遭っているので、俺の神経は過敏になっているのだ。

東京駅で降りた。駅ナカのグランスタは便利なものでショーウインドウや間仕切りがすべて鏡の役目をしてくれる。どの角度からも嫌な視線は感じなかった。
土産物の菓子をひとつ買い1.2番線ホームに向かう時に一瞬だけ違和感を覚える視線があった。互いに振り向きもせずすれ違ったが、あれは狩猟の目ではなく確認の眼だと感じた。
結局中央線には乗らずまた山手線内回りに向かった。そこにはもう視線はなかった。

(警察か・・・)ホームに取り残され電話をしていた男の眼からも、すれ違いざまに俺を確認した男の眼からも、直ぐに捕らえてやると云う意思は感じない。むしろ(なるほど此奴ですか)と記憶する眼だった。どちらにしても尾行はチーム仕事。この先も要注意である。

山手線内回りに乗り神田駅で降り銀座線に向かう。銀座線が黄色いレトロ車両擬きになっおかげで車内は真新しい。一番後ろの車両でドア際に立っていた。
新橋駅で一度降りるフェイクをかけてみたが、反応する視線は感じなかった。
赤坂見附駅で丸ノ内線に乗り換える。これも新型車両である。バブルの頃通った選対事務所、あの頃はまだ冷房すらない鎖マークのこの丸ノ内線だったことを思い出していた。

最初に逮捕されたのはここ四ツ谷駅。古物商取引業務違反と云う罪名で取り調べを受けたのは当時の政治家の金脈解明の一端だった。
今更俺如きを確保するために尾行を付けるほど警察も暇ではないと思う。だからクライアントの何処かに何らかの事件性がある筈だが思い当たる節がない。

新宿3丁目で降りた。地下通路は電飾看板で飾られ、ここでも周りをチェックできる。更にサブナードに降りて幾つかの通路を折れたが、もう視線を感じることもない。
(取り敢えず今日は解放された)階段を登るとやたらと陽射しが眩しい日だ。
大ガードを潜り西口へ向かいまた地下通路で高層ビルへ向かう。
強烈な視線を感じるのは《新宿の目》(いつもお前を見ているぞ)俺はこのモニュメントが大嫌いである。


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