1. トップページ
  2. いまここにある贅沢

ケイジロウさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

いまここにある贅沢

17/04/09 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:130

この作品を評価する

 チャチャラリー ティラティラ ティーン
 安っぽいノイズのかかった、人をおちょくっているとしか思えない音楽とともに、僕たちが乗る予定の電車が、8時間遅れでプラットホームに入って来た。構内アナウンスで何か言っているが、外人の僕たちには何を言っているのかわからなかった。しかし、謝罪の言葉が一言も入っていないことは、ノロノロだるそうに走るスカイブルーの電車から読み取れる。
 指定席だというのに完全な椅子取りゲーム体勢に入っている現地人たちが、僕たちの周りに続々と集まりだした。僕はバックパックをきつく抱きしめた。
 タンクトップ姿の痩せたおじさんが僕たちの前に強引に入って来た。体臭が生々しく僕の鼻に流れてきた。僕はそのタンクトップおじさんを肩で押した。タンクトップも僕を押してきた。僕はタンクトップを見た。タンクトップはスカイブルーの電車を、獲物を見る目で睨んでいた。
「わかったよ。君の熱意に負けたよ」
 僕が日本語で言うと、タンクトップおじさんは僕を見て微笑んだ。
「ただいまの決まり手、寄り切り、寄り切り」
 ノボルがのんびりと言った。
 竹下昇。ある街の安宿でたまたま部屋が一緒になった奴だ。自称、坊主。
 スカイブルーの電車が、プシューとだるそうにため息をついて止まった。乗車位置のマークを3mくらい行き過ぎたが、「ガタガタ言うな、オレはお前たちのために止まってやってんだぞ、コノヤロー」とそのため息に込めているように感じた。
 獲物を狙うものは、その目をぎらつかせ、3mのグレートジャーニーに勤しんだ。
 扉が一斉に開いた。
「各馬一斉にスタートしました」
 ノボルが早口に言った。
 ヨレヨレの制服を着たチョビ髭ジジイがなんか叫んでいる。おそらく、「速く乗れ、コノヤロー、もたもたするな、コノヤロー」と叫んでいる。
「『アウシュビッツ行き』と間違えたかな」
 ノボルがおどけて見せた。
「まあ、日本も、あのチョビ髭を剃って、言葉の隅々まで棘を抜いて、『おもてなし』だとかと言う、よくわからん添加物たっぷりのホイップクリームを塗りたくってるだけなんだけどな」
 ノボルがピョンっと電車に乗りながら言った。そして、人の間をすり抜け中へと消えていった。僕は重いバックパックを背負い、電車に乗り込んだ。ノボルはサイドバック一つ。しかも、単行本一冊入れればおしまい、くらいのサイズである。旅、というよりも、ちょっとパチンコ行ってくる、といった感じだ。
 14B、14B、僕が席を探していると、
「こっちこっち」
 ノボルが僕に手を振った。
指定席車両だというのに、通路までびっしりと人で埋め尽くされていて、14Bを睨みつけていた。僕が14Bに腰を下ろすと、人々は次の獲物を求めグレートジャーに勤しんだ。
 よっこらしょ、と電車がうごきだした。
 仕事している車両一台に対する、仕事していない車両が多すぎるのが、そのガクンから伝わって来た。通路であっち行ったりこっち行ったりしている人々が椅子取りゲームをしているのが分かった。このガクンが合図だったようだ。
薄暗い通路には座り損ねた人々のギラギラした目が無数に薄気味悪く光っていた。
 通路側の僕はバックパックを引き寄せた。
 窓側のノボルは窓から流れ始めた風景を見ていた。
 僕も異国の地の風景を眺めたかったが、通路にいるギラギラした視線が僕のバックパックに集まっているような気がして、それを守るのに神経をとがらせていた。
「おい、どうした、そんな怖い顔して」
 ノボルが僕を振り返って言った。
「窓の外には『ここ』の『いま』が流れ始めたぞ」
 ノボルが坊主っぽい、意味ありげな言葉を口にしたが、僕はバックパックを握りしめる力をゆるめなかった。
「わかったぞ、これだな」
 ノボルは僕のバックパックを軽く叩いた。
「こんなもん、捨てればいいじゃないか」
「何言ってんだよ。こんな中には、デジカメだろスマホだろラップトップだろ電子辞書にクレジットカードに……」
「そんなゴミ、持ってるからダメなんだよ」
「ゴミじゃない。高いんだぞ」
「ふふふ、いつもびくびくキョロキョロしてる資産家みたいだな」
 ノボルは小さなサイドバックを前の座席ポケットに突っ込んだ。
 僕はバックパックの中に入っているものの意味を考えたが、この坊主を論破しえる意味を見つけ出すことはできなかった。
「小学生のころ小遣いいくらだった?」
 ノボルは窓の外を見ながら言った。
「えっ……、たしか、月に500円くらいだったかな」
「今は?」
「独身だから、まぁ、月5万くらいは自由に使えるかな」
「なるほど。君は、100倍の中身のない贅沢を引き換えに、『ここ』と『いま』を失ったんだよ」
 膝の上に載っているバックパックの重みで身動きが取れない自分を、僕は感じた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス