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つつい つつさん

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パパより

17/04/09 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:10件 つつい つつ 閲覧数:485

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 花ちゃん、元気にしてますか。パパは元気かどうかわからないですが、とにかく生きています。この前、公園で拾った新聞を久し振りにじっくり読んで気づきましたが、パパが家を、ママを、君を捨ててから、もう2年以上経っているのですね。もう、君はこの春から中学生になるのかな。そばにいられないことを申し訳なく思います。
 40を過ぎてママに出会い、結婚し、君が生まれてすくすくと育ち、小学校に入り、そして、パパは君が中学に入り、高校に進み、そして、大学に行ったり、就職したりして、いつか結婚するまでちゃんと見守るつもりでいました。家族で過ごす時間はすごく楽しくて、とても大切でした。自分でも、なぜ家を出て君たちを捨ててしまったのか、いつも後悔しています。あのとき、もっと頑張れていたのなら、君たちを守れるりっぱなパパになれていたはずなのに。
 あのころ、パパは新しく赴任した主任とそりが合いませんでした。合わないというより、一方的にパパは嫌われていました。毎日、「仕事が遅い」「もたもたするな」「今までなにをやってきたんだ」と嫌みを言われ、怒鳴られ、君も知ってのとおり、適当にいなしたり、反省しているふりをしたり、おべっかで相手の機嫌をとったりなど一切出来ない不器用なパパは、怒られたり、嫌みを言われている最中も、いたたまれなさを持て余していました。弁解の言葉一つ出てこず、体を硬直させたまま下を見ているだけのパパを見て、主任は更に機嫌を悪くしたものです。
 それでも、パパは家族の為にも、働いてお給料を貰う為にも、毎日毎日歯を食いしばって満員電車に揺られて会社に行きました。パパは働き初めて何年も何十年も経つのに、ずっと満員電車が苦手でした。苦手というより、恐怖でした。人が詰め込むだけ詰め込まれた車内で、少し電車がカーブを曲がり横に遠心力が掛かるだけで、その圧力で自分が潰されるんじゃないかと怯えていました。ドアの傍に押しつけられ、何人もの圧力が自分に掛かった時などは、本当に死を意識しました。だから、会社の最寄り駅で下車した時は、降りただけで一つ大きな仕事を終わらせたかのような気分でした。
 ところがある日、その最寄り駅で降りられなくなりました。たぶん、降りて会社に行くことを明確な意志なく、ただ体が拒否したのです。満員電車に乗っては、詰め込まれたまま終着駅で降り、その駅舎で会社が終わる時間までじっと座ったまま待ち、そして帰るということを一週間か二週間くり返したと思います。会社から電話があっても無視していたので家にも電話はあったと思います。家に帰るとママから「あなた、どうしたの?」と聞かれました。パパは「明日は大丈夫だから」と、そう答えたのを覚えています。そして、定期券の期限が切れる日、パパは知らない駅で降り、そのままさまよい歩きました。
 パパは今、とある河川敷に青いビニールシートでテントを造り暮らしています。週に一度か二度ある日雇いの仕事や、空き缶集めをして毎日生きています。それだけでは、当然お金は足りません。だからいつも人通りの少ない夜中にコンビニや商店街などを歩き回り弁当や総菜の食べ残しを探し歩き回っています。運良く食べ残しを見つけたのなら、公園の水道で水を汲み、自分のテントの中で「ウマイ、ウマイ」とバカみたいにむしゃぶりついています。どうしても入ってくるすきま風に死にたくなるような寒気を感じるつらい夜は以前拾ってきたボロボロの毛布にくるまり、「ヌクイ、ヌクイ」とむせび泣いています。
 君たちはどうですか。ご飯は食べていますか。お金には困っていませんか。ちゃんと暮らせていますか。
 君はどうですか。つらいことはありませんか。学校は楽しいですか。中学になったら、部活は何をしますか。
 君はもしかしたら、日々の中で、パパが戻ってきてくれたらと願っているかもしれません。でも、パパのことは忘れてください。パパはつまらない人間です。どうしようもなく愚かな人間です。
 なにも食べる物がなくて、ひとりもんどりうっている夜。熱を出して、いよいよ自分も終わりかと、こんなに苦しいなら、もういっそ殺してくれと祈る夜、パパは君たちのことを思い出しています。そんな夜に、君やママが突然現れ、「パパ一緒に帰ろ」と微笑みながら言ってくれることを夢みているのです。とても身勝手な、どうしようもなくクズな人間です。
 いつか君たちの元へ帰れたらいいのですが、もう、こんな臭い体では、こんな汚い身なりでは、電車にも乗れないでしょう。
 最後に、パパが君たちに出来ることはなにもありませんが、せめて君たちが幸せに暮らせますようにと願います。こんな人間の願いなど、神様も聞いてはくれないでしょうが、それでも、それだけは毎日願います。だから、花ちゃん、どうかパパのことは、一日でも早く忘れてください。


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このストーリーに関するコメント

17/04/09 まー

心無い上司から嫌みを言われ続け病んでしまい、こうしてホームレスになっていく人も多いのかもしれないなと思いました。
日本などは特に。経済面が理由になることは逆に少ないのでしょうね。
家族を養っていた人間がそうならざるをえず、抜け出せない心境になっているというのが手紙の文面からリアルに伝わってきます。

17/04/09 浅月庵

つつい つつ様
作品拝読いたしました。

物語の最後に希望はありませんでしたが、それでもいつの日か
また家族が一つになれるような展望を描いてしまう作品でした。
とても良い作品だと思います。

17/04/09 つつい つつ

まー 様、感想ありがとうございます。
経済面だと切り詰めたり諦めたりで誤魔化しようもあるんですが、人間関係は本当につらいと思います。
人間関係が苦手なので、ついついこういうストーリーを書いてしまいます。

浅月庵、感想ありがとうございます。
まだこの話の主人公は希望を持てる環境ではないのですが、そういう人間にも転機が訪れるような出来事が
あればいいのにと思います。

17/04/13 待井小雨

拝読させていただきました。
満員電車に毎日運ばれ、必死で出勤した会社でひどい扱いを受けてしまっては心も折れてしまうのだろうな、と思います。
最後、「早く忘れてください」という主人公の願いがとても悲しかったです。

17/04/13 つつい つつ

待井小雨 様、感想ありがとうございます。
心が折れてしまった弱い主人公ですが、かといって、なかなか色々なことに立ち向かうというのも
難しいことだなと思い書きました。

17/04/15 上木成美

拝読させて頂きました。

人それぞれ守らなくてはいけないもの、大事なものがあって、でもその事だけでは強くなれない時がありますよね。駄目な人間だと思っても夢を見てしまう。切ないですが、人間らしくて素晴らしいお話でした。ありがとうございます。

17/04/16 つつい つつ

上木成美 様、感想ありがとうございます。
自分に都合のいいことを考えたり、悔んだり、誰かを想ったり、人のいろいろな面を書きたかったので、それを感じ取ってもらい、嬉しいです。

17/05/03 光石七

拝読しました。
真面目で不器用で、だからこそ苦しんで……
体が拒否する感覚、似たような経験があるのでわかります。
主人公は決して身勝手でもクズでもないと思いますが、本人は自分には資格が無いと思っているのでしょうね。切ないです。
願わくば、家族と共に暮らす日が来ますように……
心が揺さぶられるお話でした。

17/05/04 つつい つつ

光石七 様、感想ありがとうございます。
僕は妻も子供も居ないんですが、体が拒否するような感覚になった時、それでも頑張れるんだろうかと考えてしまいます。
いがみ合うというか、否定するのが仕事みたいな職場もあるので、つらいです。

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