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カフェオレさん

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どこへ行くのか

17/04/09 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 カフェオレ 閲覧数:168

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「人が何も疑わずに電車に乗っている事を君はどう思う?」
通学を共にする友人からそう言われ、いつもの不毛な議論がまた始まるのかと僕は疲労を感じた。なるべく感情を押し殺して答える。
「特に何も思わん」
友人は僕の回答を無視して続ける。
「ヒトラーはユダヤ人を列車で収容所に送っていたんだぞ、この電車もどこへ行くか分かったものじゃないぞ」
冗談にしても毎日通学にお世話になってるのに酷い言い草だ。どういう思考経路を辿ればそんな被害妄想を抱くのだろうか。頭ごなしに否定しても良かったが、こういった場合、ただ否定しても対立が強調されるだけであり、逆に一度受け入れてみる事で相手の真意を探ることが出来ると何かしらの本で読んだことがある。
「確かにそうだな、じゃあ明日から電車やめて徒歩にするか」
僕がそう提案すると友人は少し考えて椅子に座りなおし、静かに呟いた。
「いや、やっぱり電車にしておこう」
驚くほどの意志の弱さ。ここまで変わり身が早いと話をしているのが馬鹿らしくなる。これでは彼の将来の為に良くない。僕は電車を降りてから学校までの間で嫌がる友人を無理やり説得し翌日から電車通学を止めて徒歩にて通学する事にした。片道5キロメートルである。
 「おはよう」
大雨の中をレインコートに長靴を履いた私が迎えに行くと友人はまだ眠っており、母親がたたき起こしている最中であった。パジャマのままで起きて僕を見つけると挨拶もなく「あがれよ」と手招きした。この時点で時計を見るともう遅刻が確定したのだが、そこは気にしても仕方がないので気にしない事にした。彼の母親に淹れてもらったコーヒーを飲みながら友人が朝食を取り終えるのを待つ。一日で友人の思考がどれだけ成熟したかを見る為に昨日の話題を振ってみる。
 「アウシュビッツでのホロコーストについて色々調べたんだが……」
言い終わる前に友人はそれを遮った。
「朝ご飯食べてる時にする話じゃないだろ」
まあ当然か。議論好きではあっても食事の時くらいは命について忘れたいのだろう。もし本当に人が人の事を思いやれるのなら、命について思いやりを持てるなら僕らは何も食べられはしない。子供が大好きなハンバーグは牛の死骸であり、から揚げやとんかつも同じだ。現代の食事は命をどれだけ命から切り離し、遠ざけられるかに注力している。
 食事を終えた友人を急かして制服に着替えさせ、僕らはさてどうしようかもう完全に遅刻であることを考えた。だが今日は公共交通機関に対する不信感を示す第一日であり、バスやタクシー(タクシーについては二人の中で議論があったが不特定の人間を運ぶ乗り物として使わないことにした。)には乗ることが出来ない。仕方がないので友人の母の車はどうかと提案したが。相談したところ友人の母からは意味不明な事を言ってないでさっさと学校へ行きなさいとお叱りを受けただけだった。学校には遅刻して叱られた。帰りは電車で帰った。友人も少しは懲りたのだろうか。寝息を立てて眠っている友人を見て僕は微笑んだ。



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