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浅月庵さん

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彼に正面から向き合うと、この恋は終わってしまう

17/04/08 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:355

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 高校の入学式前日、父が目を輝かせながら私に言った。
「香苗は明日から電車で学校か。羨ましいなぁ」
「お父さんみたく車で通勤の方がよっぽど楽でしょ」
「僕だって通勤ラッシュの恐ろしさは知ってるよ。だけどさ、電車って.......格好良いじゃないか」
「はっ?」
「前から見た時の武骨さと、側面のスマートなデザイン。たまらん」
 新幹線や蒸気機関車ならまだしも、私がこれから通学で使用する電車は、失礼ながら凡俗的なやつだ。あれのどこにロマンを感じているのだろうか。
「興味ない」
「電車はさ、正面から見た時と、横から見た時だと全然印象が違って見えるんだよなぁ」
 お父さんの話が長くなりそうだったので、私はそそくさと自分の部屋へと戻る。そんな自己満話ばかりするからお母さんと離婚するんだよ、なんて心のなかで毒づいた。

 ーー入学式も終わり、登校初日。
 私は着慣れないブレザーの裾を無駄に手で払いながら、電車を待つ。すでにホームの人口密度は他人同士の肩と肩が触れ合うところまできていた。

 電車がホームへと滑り込んでくる。私は流れに身を任せ、自分自身を車内へと無理矢理押し込んだ。

 自由に動かせるのは首くらいなもので、何気なく私は左右を見渡す。
 ふと、私から五人分くらいの距離にいる、背の高い男の人に視線を止めてしまう。思わず私は呼吸をするのを忘れてしまった。爪先から頭の天辺まで電流が走ったかのような衝撃で、私の体温急上昇。

 その人の横顔に私は一目惚れしてしまう。
 高い鼻に、切れ長な目と、薄い唇。
 ドンピシャだ、超格好良い。着ている学ランから高校は推測できた。
 予測通り、彼は私の降りる駅の三駅手前で降車する。襟元のバッジから彼が、私と同じ一年生だということはわかった。

「お父さん、電車って良いもんだね」
 夕食の時間。私はぽつりお父さんの前で口を開く。
「だろー! やっぱりあのフォルムが、」
「お父さんの想像してることとは違うから」
 私の反応に、無駄に勘の鋭いお父さん。
「はは〜ん。格好良い人でも見つけたか」
「何でわかったの!?」
 椅子から腰を浮かせた私は、すぐに自分の過ちに気づいた。
「お父さんも高校生の頃、電車で初めてお母さんと出会ったんだよ。車内で何度か目が合って、」
「ごちそうさまでした!」
 私は食器をそそくさと流し台へ片付けた。両親の馴れ初めなんて聞きたくもない。こんな話題、食卓に持ち出すんじゃなかった。

 それから私は、車内で見かける彼のことを目で追い続けた。春夏秋冬ひっくるめて、学校がある日は毎日だ。
 お父さんは初めてお母さんと電車で出会い、付き合い、それから結婚なんて考えると、私にもチャンスがあるんじゃないかと思ったけど……結局離婚したんだよね。

 彼に面と向かって想いを伝えるなんて、戦車に紙飛行機をぶつけるくらい無意味か。そんな風に自分へ言い聞かせ続けたものの、彼への想いは募る一方だった。
 いつの日か彼に告白したい、そんな淡い希望を私は持ち続けた。

 ーーただ、決断を先延ばしにしていると、いよいよもう後が無くなってしまう。

 結局私は彼の名前さえ知ることのないまま、三年の月日を過ごしてしまった。
 今日告白しなければ、もう二度とチャンスはないだろう。私は心のなかで自分に喝を入れた。

 私の高校の三駅手前。そこで彼は電車を降りた。私もすかさず降車し、彼の後姿を追いかける。
 私は遅い足で何とか彼に追いつき、大胆にも彼の腕を引っ張った。
 その反動でこちらを向いた彼。心臓の鼓動が高鳴る。三年越しでやっと、私は彼と向き合うーー。

「誰っすか? 何か用っすか?」
 私は彼の顔を見て、失礼ながらにも愕然とした。今思えば私は、彼の顔を一度も正面から見たことがなかったのだ。

 結論から言うと……横顔からのイメージとまるで違ったのだ。ハッキリ言ってしまえば、私のタイプではなかった。
「あの、その……」
 私は正直迷っていた。ここで告白しなければ三年間溜め込んでいた私の片思いは無駄になってしまう。
 だけど、正直恋の熱は直滑降。クールダウンし始めていた。
「何なんすか。マジで……」
 ぶっきらぼうな口調に、私が思い描いていた彼へのイメージが、どんどん崩れていく。
「えっと」
「あぁ、もう行くわ! こっちは急いでんだっつーの」
 そう言って彼は、私の前から姿を消した。
 元はといえば私が悪いのだけど、それでもこんな最悪な形で初恋が終わってしまうとは、想像すらしていなかった。彼があんな人だとも思わなかった。

 私はいつか言っていた、父の言葉を思い出す。
「電車はさ、正面から見た時と、横から見た時だと全然印象が違って見えるんだよなぁ」

 私は、もう用の無くなってしまった駅で、次の電車がくるのを待った。


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このストーリーに関するコメント

17/04/09 まー

第一印象の憧れのまま終わっていたらよかったのかもしれませんね。
今後は父ちゃんに見倣って正面と横から見て判断することでしょう(笑)。

17/04/10 浅月庵

まー様
ご感想ありがとうございます!

一体、告白しない後悔と告白した故の後悔、
どちらの方が良かったのか......。
ずっとスルーしてた何気ない父親の言葉が、
実は最後に意味を持つような作りにしてみました。

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