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sakura

17/04/08 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 かいわれ 閲覧数:219

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「わあ 奇麗だね」
電車の窓からは桜がよく見えた。今年も満開だ。彼女は嬉しそうに言う。
「この唄 そのまんまだね」
彼女はいきものがかりのsakuraを聞いていた。
いきものがかりはデビューする前、このあたりで路上ライブをしていたらしい。
買ったばかりのiPodに入れて毎日聞いている。おきにいりの曲だ。
電車からはよく桜が見える。桜が見事だ。
桜並木を行きかう人々、その光景にみとれながら。ぼんやりと僕は彼女の行動を眺めていた。
僕たちは何かをしゃべるわけでもなく彼女は熱心に曲を聴いている。
楽しげだ。カラオケでもよく歌っていたなあ、と思い出した。僕はカラオケが下手でいつも聞く係だが
彼女はマイクを離さない。一人独演状態になる。でもそれが許されるキャラだった。
周りに気を使ってばかりの僕とは全然違うのだ。彼女は豊かな人間関係を築ける。影キャラの僕とは全然違う。
笑えるぐらいに住む世界が違うのだ。同じクラブというだけで。そしてその接点は消え去ろうとしていた。


小田急線の窓に 今年も サクラが映る



電車は駅を出て次の目的地へ向かおうとしている。ゆっくりとホームを離れていく。
高校生活が終わる。一つの区切り。少しずつ歳を取り学生時代が終わり社会人になる。それは誰にも止められない。

僕らは同じ高校で、でも大学は違うところに行こうとしていた。進む進路も違う。
卒業式が終わってすこしのんびりしている。彼女は気持ちよさそうにのびをしている。
それは僕をどぎまぎさせた。
高校生活が終わり春休み高校時代の仲間とこうしてあった帰り、彼女と2人きりになった。
まあまあ仲が良かったがそれ以上でもない。
もう高校生ではないかといって大学にも入学していない。18歳の春。
告白するわけでもなく距離を縮めるわけでもない。中途半端な二人。大学に入ったらもう会わないのかもしれない。
同じ吹奏楽部に所属していただけで仲は良かったがただそれだけだ。たぶんそれ以上の進展はない。
「高校生活楽しかったね」
彼女は満面の笑みで言う。楽しそうに。

「そうだ。明日から旅行するの 卒業旅行」
「どこに?」
「伊豆の方。そのあとは決めてないけど」

そう言って頷いたが何かもう別のことを考えているようだった。
旅行の計画かもしれない。楽しそうだ。邪魔はしてはいけない。

「大学何学部だっけ?」
「法学部。税理士になろうかと思って」
「私は外国語学部。大学行って留学して色んな国の人と知り合うの 国際機関とかで働きたい」
彼女は楽しそうに笑った。彼女ならうまくやるだろう。間違いなくポジティブで誰にでも公平に接する。
外国人ともうまくやるだろう。一方僕はフレンドリーでもなく友好関係は狭い。
誰とでもうまくやる、僕にはその自信がなかった。狭い世界でしか生きられない気がした。たぶん
彼女みたいに広い世界には出られないだろう。間違いなく。日本に住んで一生を終える気がした。
住む世界が少しずつ違っていくのだろう。これが同じ世界にいる最後の機会かもしれない。



それぞれの道を選び ふたりは春を終えた




そうこうしているうちに桜並木は車窓から消え、いくつかの駅を通り過ぎた。
ああそうだ。僕はふと気が付いた。大事なことに。
彼女は次の駅で降りる。ここで言わなくては。最後のチャンスかもしれない。
「あのさ」
「なに」
「いや・・・・ これからも連絡くれよ」
「もちろん」

そう言って胸を張る。そうこうしているうちに電車は駅に滑り込んでいった。
ホームに停車してドアが開く。いつも肝心なことだけ言えない。そして損をする。それは変わらない。きっとこれからも。
「じゃ」
僕は笑って頷き、また今度、とだけ言った。
「また今度」
そう言って彼女は笑いながら電車を降り去っていった。そしてそれからもう会うことはなかった。




・・・・・・・・・・・


僕は28歳になった。
社会に出て、それなりに揉まれている。でも自信はない。
相変わらず差しさわりのない人間関係しか築けない。社会人になっても。
一方、彼女は大学卒業後、カナダに渡り日本にはなかなか帰ってこない。
噂では、カナダ人と結婚したらしい。子供もいるようだ。
Facebookに載っていたようだ。そうクラスメイトが教えてくれた。
ぼくは就職をしながら勉強をしているけれど、まだ税理士にはなれていない。たぶんなれそうにない。

都心の方に住んでいるけど、春になると地元に戻って桜並木を眺める。それは変わらない光景だ。
高校時代から。あらゆるものが変わったとしても、桜だけはあまり変わらない。


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