1. トップページ
  2. 電車ごっこ

佐々木嘘さん

変な話ばかり書いています

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

電車ごっこ

17/04/08 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 佐々木嘘 閲覧数:139

この作品を評価する

 あっ、と。振り返るとそこに電車があった。真っ赤な電車だ。一両だけの玩具みたいな電車だった。
「……駅?」
「乗りますか?乗りませんか」
 急かす風ではない口調でそう言った運転手は制服姿に狐のお面を被っていた。
「の!乗ります」
 慌てて駆け込み私はとりあえず椅子に腰を掛けた。数秒後電車はゆっくりと進みだす。少し落ち着いたので状況を整理しようと思った。まず、どうして私は駅に居たのだろうか。確かにあの駅は最寄り駅だけどこんな電車は見た事がない。運転手も。あんな奇妙なお面を被るなんて変な話だ。咄嗟に乗る、と答えたけれどこれは一体どこへ向かうのだろうか。
 どうしよう。どうしよう!後悔だけが押し寄せる私は漠然とした不安に耐えれなくなり運転席へと走り出す。
「あの!」
「どうされましたか?」
 運転手は振り向かずに反応した。
「すみません。私間違えて乗ったみたいで」
「間違えてませんよ」
「え?あっ…でも違います」
「大丈夫ですよ」
 何でもない口調で運転手はさらに速度を上げる。
「やめて!降ろして下さい!」
「? どうしてですか?乗ったのは貴方でしょ?」
「そうですけど!でも、……え?…あれ?」
「どうしました?」
 その時頭の中では物凄い速さで記憶が映し出されたのだ。それは知るはずもない生まれた瞬間から自分が成長していく映像が恐ろしい速度で映し出された。
「どうしました?」
 もう一度運転手が同じ台詞を言ったと同時に私はあまりの目まぐるしさに酔ってしまい思わず嘔吐する。
「どうしましたか?」
「…違うんです」
「何が?」
「…進みないんじゃなくて戻りたいんです」
「どこへ?」
 私は今年30歳になる。いや、なったのだ。小さな頃想像してた大人ではなく、資格もお金も恋人も友達も無い孤独で惨めな女に。
 「…あの頃のキラキラ夢見てた私に」
 もっと頑張っていればもっと社交的であればもっと夢の為に頑張っていれば。後悔は脳みそを蝕んで止まらない。当たり前の人生を歩めなかった愚かな自分が、悲しくて悔しくて。毎日生きるのが苦しかった。
「…もう進みたくない…もう歳をとりたくない」
「そうですか」
 べそべそにうずくまり泣きじゃくる私に狐のお面の運転手は右手を差し伸べた。
「では、あなたのその願いを叶えましょう」
 後光が差すその手を震えながら掴むと私の身体は宙に浮くかのように軽くなり視界はまばゆい光で覆われた。
 嗚呼。戻れるのだ。この不思議な男の力によって私はあの頃の希望に満ちていた輝いていた幼い自分へ!やり直せるのだ。糞みたいだった今までの人生を修正出来る!思わず笑顔が零れ浮かぶ体に心も身も預け私は光の奥へと消えてゆく。

「…あれ?」
 ふと我に返ると私は今までの私だった。
 あれ?おかしいな。私は勝手に7歳くらいに戻るのを想像していたので戸惑ってしまう。ああ、でもこれから年齢設定を決めて人生を修正していくのか。そう思った瞬間後ろに『何か』の気配を感じる。
 あっ、と。振り返るとそこに電車があった。真っ赤な電車だ。一両だけの玩具みたいな電車だった。
「……駅?」
「乗りますか?乗りませんか」
 急かす風ではない口調でそう言った運転手は制服姿に狐のお面を被っていた。
「の!乗ります」
 慌てて駆け込むと中には運転席に居たはずの運転手が椅子に腰を掛けている。
「あの」
「なんですか?」
「私、7歳からやり直したいので宜しくお願いします」
「? 何のことですか?」
 運転席には誰もいないはずなのに荒くドアが閉まり電車は恐ろしい程の速度で走り出す。
「や!怖い!止めて下さい!」
「どうしてですか?」
 あまりの速さに恐怖を覚え私は必死で訴える。
「怖い!嫌だ降ろして下さい!」
「? どうしてですか?乗ったのはあなたでしょ?」
「そうですけど!でも、……え?…あれ?」
「どうしました?」
「え?あれ?待って、これと同じことが前にも」
「どうしました?」
 もう一度運転手が同じ台詞を言ったと同時に私はあまりの目まぐるしさに酔ってしまい嘔吐する。
「どうしましたか?」
「いっ、いい加減にして!貴方は!私の私の願いを叶えてくれるんでしょ!?」
「そうですよ」
「だったら今すぐ此処から降ろして年齢を戻して!今すぐよ!」
 興奮からつい口調が荒くなった。でもこっちだって人生がかかっているのだ。嘔吐物を履き散らしながら私は乱暴に男の襟元を掴み懇願する。
「貴方の願いは叶えましたよ?」
「え?」
 運転手は冷たく私の手を叩き落とした。
「もう進みたくない、もう歳をとりたくない。その願いを叶えて差し上げました。」
「え?」
「貴方はこれから歳をとらない。当たり前ですが戻りもしない。『永遠に』この電車に居るのです。」
「…………え?」
「ご乗車ありがとうございます」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス