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大ア歌寿さん

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異空間

17/04/06 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 大ア歌寿 閲覧数:214

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 プー、ゴオー。今日最初の特急がこの駅を過ぎて行った。もう見慣れたこの景色、この音で一日の始まりを感じる。
私の家は駅から5分ぐらいのところにあるマンションで、電車の音がよく聞こえる。駅近が売りだけれども、この駅は普通しか止まらない。しかもホームがかなり曲がっていて電車とホームとの隙間がかなりある。この駅近くにもう18年住んでいる。
「ゆうこ、朝ご飯はどうするの?」
「いらない、電車乗り遅れちゃうし。今日の試験外せないから。」

 高校生は何かと大忙しなのだ、電車の中は唯一公共の場でありながらプライベートが持てる場所だと思っている。この通学時間が大事で、試験勉強の大山予想をしながら最後のツメをするのはいつも電車の中だ。毎日同じ時間の同じ電車に乗っているので乗客も知っている顔ばかりだ。だから乗客でその日の様子を感じることができる。
『あれ、いつも携帯をいじっている人が勉強している…あの人も試験なのかな』
『ドア横に座っているサラリーマンが今日は立っている…寝坊したんだな』
私は勉強のノートに目を通しつつそんなことを考えていた。学校までは約20分この普通電車に揺られている。途中で特急に乗り換えることも可能だが、混んでいるので早めに家を出てこの選択を選んでいる。特急でもみくちゃにされるぐらいなら早起きした方がまだましなのだ。

 「おはよう」5駅目で友達のあきが乗り込んできた。こうなると勉強ができなくなるかもしれない。なにせ女子高校生はおしゃべりが大好きだ。普段ならここから女子トークなるものが始まるが、今日の試験は入試に影響する試験だけにあきも勉強しようと言ってきた。珍しいこともあるものだと思いながら感謝しつつ、私たちは問題を出し合いながらその時間を過ごした。私たちの学校は最寄り駅から約10分歩く。駅に着いても歩きながら勉強をやめることなく私たちはそれぞれの教室に入った。

 その日の試験の大山は当たった。朝電車で勉強した箇所がいくつも出たのだ。この試験はもらった。きっとあきもできていることだろう。やっぱりこれだから電車での勉強は欠かせない。いくら家や塾で勉強してもどこか抜けてしまうが、電車での集中力は自分でも驚くほどだ。たまに騒がしい学生(自分も学生だが)がいるとイラっとするし、勉強どころではないのだがあの空間は居心地がいい。新しく買った本を一番最初に開くのもいつも電車の中だ。少しの揺れと人の話し声が良いのだろうか、安心感がある。

 私はほとんどどこに行くにも同じ路線を使っている。世の中に線路は網のように張り巡らされていて、どこにだっていけるのだけれども私はこの路線が好きなのだ。たとえ家からは普通しか止まらなくても学校まで一本で行けるし、なにより運賃が安い。学生にとってはこれがなによりだ。特急に乗り換えさえすれば大きな町にも30分ほどで出られて重宝している。併設されている百貨店やデパートで買い物を済ますことだってできる。この路線の好きなところやいいところをあげればキリがないだろう。それぐらい慣れ親しんできている。

 しかし次の春から私は大学生になる、第一志望校は県外で通うのは厳しいということで一人暮らしをする予定だ。そうすると最寄り駅はこの路線ではなくなり、この電車を使う頻度もぐっと減ってしまうことになる。それは少し寂しく感じているところだが、こればかりはどうしようもない。電車のために志望校を変えるなんて聞いたこともないし、きっと新しい路線も素敵だと思う、ようにしている。

 電車とひとくくりにしてしまいがちだが、路線によってそれぞれ特徴が違っている。私が乗ったことのあるものでもシートの感覚が狭いもの、座席数が多いもの、やたら走るときの音がうるさいものとさまざまだ。私の路線は比較的人が少ないが朝のラッシュ時には体が浮いてしまう程人が多い電車もあると聞く。私のプライベートな電車の時間はこれからどうなっていくのだろうか。いつか電車が嫌いになる日が来てしまうのだろうか、大人にはなりたくない。そう思いながらも確実にこの電車に乗る回数は減り、私は大人になっていく。小さな男の子が電車を好きな理由と私とはまるで違う。人間観察をしたり、音楽を聴きながら本を読んだり勉強したり、普段あまりしないことを存分にできる、このプライベートな空間が私は好きなのだ。きっと環境が変わっても新しい風が吹くように、私の生活の一部に電車はいつづけるだろう。それはただの乗り物ではなくかけがえのない空間として。

 『さて、今日もこの電車に揺られながら帰りますか。』私は少し駆け足になりながら駅へと向かった。





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