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浅月庵さん

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とある名門私立幼稚園のお遊戯会

17/04/02 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:13件 浅月庵 閲覧数:950

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 あんず組の合唱が終わり、次はすもも組の劇が始まる。
 私の娘たちの出し物は“浦島太郎”の劇だ。子どもたちが元気良く演技するのを、その場の誰もが楽しみにしていた。

 ただ蓋を開けてみると、浦島太郎役が……十二人もいる。その内の一人タイガくんの姿が、ステージの端で少し見切れていた。

「主役だっていうから張り切って見に来たのに」
 私の隣に座るケンゴくんママが、不満げに呟いた。
「何だか騙された気分ね」
 後ろの席に座るユウタくんママが、その言葉に同調した。
「まぁまぁ。子どもたちの晴れ舞台ですし、見守ってあげましょうよ」
 私は二人をなだめようとするが、反対に火に油を注いだに過ぎなかった。
「アカリちゃんママのとこは亀でしょう? 亀役は一人しかいない。実質主役みたいなもんじゃない」
「いえいえ、それは暴論ですよ。主役はユウタくんとケンゴくん。後はタカヒロくんにカズサちゃんに……」
「多いわ! 大渋滞だわ!!」
 二人のママの声が、いつものソプラノから今はバスで重なった。
「この園の教育方針は、一人ひとりの意志を尊重する、ですし。これは立派な配慮ではないでしょうか」
「みんなのやりたい役をさせてもらえるのは有難いことですけど、これはさすがに……」
 私の正論に少しだけ大人しくなったケンゴくんママが、膝の上のハンドバッグをギュウと握り締めた。
「そんなに不満なら、お二方のお子さんも違う役に立候補したら良かったじゃないですか。例えばほら、これから出てくる竜宮城のタイとかヒラメとか、それこそワカメとか」
「馬鹿にしてるんですか!? 今日は星空小の先生方もお見えになってるのに、そんな無様な……」
 そこまで言いかけて、ユウタくんママは口をつぐんだ。

 星空小学校へ入学させたい親御さんたちはここ、はあと幼稚園に自分の子どもを入園させるのが一般的だ。ここは名門私立幼稚園として有名で、先生方も熱心に子どもたちを指導してくれる。礼儀や立ち振る舞いの上品さなどは、一朝一夕で身につくものではないからだ。

「自分のお子さんを星空小の先生方にアピールしたい。そう願った結果が、これですか」
 私の娘(亀役)に連れられて竜宮城へやって来た、十二人の浦島太郎。そこに待ち受けていたのは、七人の乙姫だった。
「いや、多いわ‼︎」
 七人のママの声がタイミング良く重なった。私は容量いっぱいで耐えきれなくなった水風船のように限界で、思わず吹き出してしまう。
「ちょっと! 何が可笑しいのよ!!」
 数人のママが立ち上がり、私を指差した。
「あははは、ごめんなさいね。だって見てくださいよ、アレ。ヒラメやタイが後ろで、必死で」
 浦島太郎と乙姫に役が集中して人手が足りなくなったのか、先生方が魚の絵を描いたプレートを持ち、ヒラヒラと子供たちの後ろを泳ぎ回っていた。
「あなたさっきから私たちのこと馬鹿にしてません!?」
「そんな、滅相もない。皆さんは、村人にイジメられるノロマな亀なんて、自分の子どもにやらせたくない。そうお考えだったのでしょう?」
 プライドの高いこの人たちのことだ。私はそこまで考えて、自分の娘を亀役に立候補させた。結果大成功。
 紛れもなく、私の娘がこの舞台で一番輝いている。まるで水を得た魚のようだ。亀だけど。

「やめてください!」
 ステージから聞き慣れた声が飛んできて、喧嘩寸前の私たちは思わず固まってしまった。
 振り返るとそこには、アカリを筆頭に浦島太郎役も乙姫役も、みんなが手を繋いで立っていた。
「アカリ?」
「私たちみんなは、今日までいっぱいがんばってきました。だから、しっかり見ていてください。けんかしないでください」
 ハンマーで頭を思い切り殴られたような衝撃だった。私は半分倒れるように、パイプ椅子へ腰を下ろした。
「そ、そうね。私たち大人げなかったわね」
「子どもたちに、私たちが教えられましたね」
 各々、自分たちに言い聞かせるよう呟きながら、席に着いていった。

 私はステージの上で健気に頑張る我が子を見た。
 過酷なお受験戦争に疲れ、私は少し正気ではなかったのかもしれない。
 こんな簡単なことまで見失っていたなんて、親として失格だ。

 お遊戯会が終わり、幼稚園からの帰り道。私はアカリに視線を合わせると口を開いた。
「ごめんね、アカリ。お母さん、アカリたちにみっともないところ見せちゃったね」私は心から反省して呟くと、アカリは手を差し出してきた。「手、繋ぐ?」
「プリプリのステッキで良いよ」
「へっ?」
「あのままお母さんたちがけんかしてたら、ぜったいおじゅけんにひびくと思ったの」
「……アカリ?」
「それにくらべたらオモチャの一つなんて、やすいもんでしょ」

 この子は紛れもなく私の子だ、と強く思った。


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このストーリーに関するコメント

17/04/02 スパ郎

読ませていただきました。 すごく面白かったです!今の幼稚園てこういう事ありそうですよね。 7人の乙姫 笑 

17/04/02 浅月庵

スパ郎様

早速ご感想いただきましてありがとうございます!
小学校に入るにも受験があるなんて、子どもも大変だなーなんて思いながら書きました(完全に他人事)
一つの役に二人とか三人ならアリだと思いますが、極端に増えると逆にモブキャラみたいになってしまいます笑

17/04/02 浅月庵

スパ郎様

早速ご感想いただきましてありがとうございます!
小学校に入るにも受験があるなんて、子どもも大変だなーなんて思いながら書きました(完全に他人事)
一つの役に二人とか三人ならアリだと思いますが、極端に増えると逆にモブキャラみたいになってしまいます笑

17/04/03 まー

“「いや、多いわ!!」”このセリフ、ツッコミ調で読んでみると面白いです(笑)。
お受験に必死な親がいる一方で物事を冷静に見てる子供が多いのかもしれませんね。

17/04/03 浅月庵

まー様

ご感想ありがとうございます!
その部分は狙ったので、面白いと言ってもらえるとしめしめ......って感じです笑
親よりも子どもの方が冷静というか客観的に見れてる場合が多いかもしれませんね。

17/04/03 あずみの白馬

拝読させていただきました。
子供の方が冷静で、なかなかシュールなお話だったと思います。
それにしても浦島12対乙姫7は笑いました。

17/04/03 浅月庵

あずみの白馬様
ご感想ありがとうございます!

やっぱりシュールですかね......笑
浦島太郎役が大量にいるっていう設定から書き始めたのですが、こうなったら乙姫も増やしてやれ!というノリになってしまいました笑

17/04/21 待井小雨

拝読させていただきました。
自分達の見栄やお受験を優先させて騒ぐ母親たちと比べ、お遊戯を頑張る子供たちは一生懸命で偉いなぁ、………と思いきや、更に上を行くドライな「大人」っぷりですね(笑)
面白いお話をありがとうございました。

17/04/21 浅月庵

待井小雨様

ご感想ありがとうございます!
受験とかの意味をよくわかっていない子どもだからこそ、
冷めた視点で物を言ってしまうのかもしれません(笑)
面白いと言っていただけて嬉しいです!

17/05/06 むねすけ

読ませていただきました
アイデアの展開の仕方が鮮やかで、面白かったです
アカリちゃんママが我慢しきれずにこぼしてしまう優越感、これが嫌味にならず読んでいて微笑ましいところが上手いなぁと思いました。

17/05/07 浅月庵

むねすけ様
ご感想ありがとうございます!

既存の浦島太郎自体をなぞると
構成の仕方が上手い人が沢山いらっしゃるので、
自分なりにひねってみました!
終始コメディに落とし込んだお話に
したかったので、アカリちゃんママに関しては
行き過ぎないよう気をつけました笑

17/05/22 光石七

拝読しました。
お遊戯会の配役の仕方やお受験戦争に必死なママたちの様子など、ユーモアの中にリアリティがありました。
ママたちを反省させた子供の健気さに感動していたら……子供の方が一枚上手だったとは。
読みやすく、とても面白かったです!

17/05/22 浅月庵

光石七様
ご感想ありがとうございます。

やりすぎても白けてしまいそうな気がしたので、
なかなか難しいところでした、、、笑
ある意味純粋無垢な子どもに、してやられた!という感じの
オチにしてみました。
面白いと言っていただけてとても嬉しいです^^

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