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かつ丼さん

小説やエッセイを書くという事に関しては全くの素人です。私の文章に対して厳しいコメントをお待ちしております。貴重なお時間ありがとうございます。

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最終電車

17/04/02 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 かつ丼 閲覧数:205

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冷房の効きが悪い会社で仕事がはかどらず、また最終電車に乗り遅れてしまった。家まではこの駅から電車で一時間程かかるからタクシーを使うわけにはいかない。かと言って、このかなり郊外の駅前には泊まる場所もない。どうしたものかとベンチに座り込んでいると、他にも客とおぼしき人が何人かホームに立っているのが見えた。逆方向の電車はまだあるのかと時刻表を確認してみたがそれもないようだ。それではあの人達は何を待っているのだろうと考えていたら貨物列車がやってきた。通過するのかと思えば、その長編成の列車は速度を緩めながら最後の車両がホーム中央あたりで停止した。と、同時にホームに立っていた連中がその車両に向かって歩き出した。そして貨物列車に乗り込んで行くではないか。私も何とはなしに彼等のあとについて並んだ。

「何処まで行かれますか?」

車掌のような者が車両の入り口に立って客に確認している。

「熊ノ沢まで。」

貨物列車に人も載せる事は知らなかった。またその列車がどこへ行くのかも全く見当がつかなかったが咄嗟の事だったので自分の駅の名前を係員に告げた。

「あなたは会員ではありませんね。旅客会社のICカードは使えませんから現金でお支払い下さい。」

意味はよくわからなかったが、金を払って列車に乗り込んだ。中に入るとそこには見覚えのある男がいた。この客車には窓がなかったが、クロスシートの座席があって、その男は窓、ではなくて壁際に座っていた。

「田中じゃないか。どうしてここに。」

田中は大学院時代の同僚であった。学位を取った後もたまたま同じ研究所で勤務していた。彼は三年程そこで研究生活を送ったのち、大学に採用された。直接連絡を取り合うことはお互い多忙もあって頻繁ではなかったが、それでも、年に数回は会っていた。そして数か月前、彼が交通事故で亡くなった事を共通の友達から聞く事になった。

「びっくりしただろう、こんな所で俺と会うなんて。だけど俺はお前がここに来ることを知っていて、待っていたんだ。俺が突然死んで悲しんでくれたことも知ってるよ。おまえはいいやつだな。」

田中は不慮の死の数か月前に同じ大学に勤務するアキという女性と結婚していた。私も会ったことがある。子どもも生まれる予定であった。だから悲しいのと同時に憐みを感じていたのも事実だ。そんな私の心を見透かすように田中は言った。

「なあ、青木、俺は楽しくやっているから俺の事で悲しむのはもうやめてくれ。研究も続けているし、毎日充実している。信じられないかもしれないけど。ただアキの事がとても心配だ。だから俺がこうして元気にやっている事をアキに伝えてくれないだろうか。」

列車には驚いたことに食堂車もあり、田中は天ぷらをごちそうしてくれた。

「うまいだろう。この世の物とは思えないくらいかもな。ところで青木、顔色が悪いぞ。何か心配事でもあるのか。」

腹ごしらえも済んだところで私はウトウトとして眠ってしまった。

「お客さん、起きてください。もうすぐ一番電車が来ますよ。」

どうやら駅のベンチで一晩過ごしてしまったらしい。蒸し暑い日だったので夜風が心地良かったのだろうか。これから家に帰っては仕事に間に合わないから、このまま会社に戻るとするか。それにしてもあれが夢だったとはとても思えない。天ぷらもうまかったし。まあとにかく田中が、どこか知らないが新しい所で楽しくやっているようで何よりだ。ただ田中との約束は守れそうにない。なぜなら私は、悲しみに暮れているアキの心の隙間に入り、結婚を受け入れさせてしまったのだから。田中はそのことを察してしまったのではないかとふと思った。

秋も深まった頃、酷い頭痛のため仕事が思うように進まず、最終電車をまた逃してしまった。そういう事が余りに頻繁になったため、会社に寝袋を用意していたのだが、今日はあの貨物列車がまた来るような気配がしてホームで待っていた。ただ今度は私の他に誰もいなかった。一瞬の風と共に列車はやって来た。

「何処まで行かれますか?」

車掌のような者が車両の入り口に立って私に確認した。

「熊ノ沢まで。」

中には田中とアキがいた。

「また会ったな。やっぱり俺にはアキが必要だ。今は本当に幸せだ。ほら、俺たちの娘だよ。かわいいだろう。」

私はアキに抗議しようとしたが、言葉を発する事が出来なかった。アキは朝私を見送ってくれた時と同じ服を着ていた。

熊ノ沢で列車を降りると、私の乗ってきたのは貨物列車ではなく、いつも通勤で使う見慣れた電車だった。妙に重い体で家にたどり着いた。アキを呼ぶ。返事がない。鍵を使って中に入る。アキの持ち物は全てなくなっていた。気が付けば電話が鳴っている。

「警察です。青木アキさんが事故で亡くなられました。直ぐにおいでいただけませんか。」


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