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浅月庵さん

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タマテバコタバコデストロイ

17/04/01 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:9件 浅月庵 閲覧数:602

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 寂れた喫茶店に、僕とAさんの二人。革張りのソファ椅子に座り、向かい合っていた。
 テーブルの上に置かれたコーヒーカップから立ち昇る湯気は、すぐにAさんの煙草の煙に邪魔される。香ばしいコーヒー豆の香りも同様に。

「実際にあったことを、そのまま話していただければ問題ありません」
 Aさんは、僕の作った“ネットニュース! 夫婦の修羅場5連発”の資料に目を通し、困った表情を浮かべながら頭を掻いた。
「名前は勿論ですが、細かいところは脚色してくださいね」
「承知しております。それで早速なんですが、夫婦間で何があったのか、教えていただけますか?」
 僕はテーブルの脇に置いたボイスレコーダーの録音ボタンを押した。

「……私には、結婚して八年になる夫がいました。初めの内は仲も良く、子どもがいないことを除けば本当に幸せでした」
「初めだけ、ですか」
「えぇ。三年と保ちませんでしたね。すぐに夫婦生活は崩壊していきました」
「崩壊ですか」
「まず、家庭での会話が極端に少なくなりましたね。私に興味がないといいますか。単なる家政婦としか見ていないような。毎日の帰りも遅く、仕事だ、飲み会だ、なんて言い訳していましたが、それは違いました」
「と、言いますと」
「あの人、私のことをとっくに女として見ていなかったようです。連日キャバクラや風俗に通い詰めて、ベタな話ですが財布に入ってるレシートを見てわかりました」
 そう言ってAさんは、切なさで潤む瞳をコーヒーカップへ向けた。

「それはショックですね」
「確かに良い気はしません。ですが、その時の私は彼に対する愛情がまだ充分にありましたので、前向きに捉えることにしました。キャバクラも風俗も、結局はプロの人にお金を払って付き合ってもらってる。浮気なんかではない、と」
「……」
 眼前に座る、今日初めて会った女性から、夫婦間の“リアル”を聞き出す。下衆な商売だな、なんてつくづく思う。

「ただ、私にもこのままではいけないという気持ちがありました。なので、直接夫へ詰め寄ったのです。夜の遊びもほどほどにして、と。彼は最初しらばっくれていましたが、控えておいた証拠などを見せると観念しました」
「改心なさったと」
「いえ、口先だけでした。一週間と保たなかったです。念のため私、興信所を雇って夫の行動を調査してもらいました。あれはまるで猿でしたね」Aさんは一年前の出来事を、一切オブラートに包まない。彼女は頭のなかでぶちまけた過去そのものを見下すよう、鼻で笑った。「そしてある時、決定的な事件が起きたんです。その日は、夫の誕生日でした。彼は家で料理を作って待っている私のことなんて気にも留めず、外でご飯を済ませると、夜の街に一歩踏み出しました」
「非道いですね」
「その途中で、彼は酔っ払って道端に座り込んでいる若い女の子を見つけました。彼は足元に落ちた100円玉をラッキー、と拾うように、ホテルへその女の子を連れ込んだのです。彼はとうとう、浮気をしました」
「あらら……」
「激怒した私は、朝方に帰ってきた夫へラッピングを施した一つの箱を渡しました。夫は誕生日プレゼントなんて貰えると思っていなかったらしく、ウキウキとした表情で包み紙を剥がしました」
「……」僕は自分が生唾を飲み込む音をはっきりと聞いた。
「箱には、私の分の記入欄を埋めた離婚届と、浮気の証拠となる写真の束です。興信所の人にすぐ用意してもらって、彼が帰ってくる前に準備しました。今でも彼の顔は忘れられません。その箱を開けた途端、一瞬にして彼の顔が老人みたく老け込んだんですよ」
 Aさんは腹の底から込み上げてくる笑いを抑え込むのに必死なように見えた。

「まるで浦島太郎みたいです」
「上手いこと言いますね。そうだ、ライターさん。乙姫が何故、浦島太郎に玉手箱を渡したと思います? あんな迷惑な箱、嫌がらせ以外の何物でもないでしょう」
「確かにそうですね。理由があるんですか?」
「ふふ、あれは試したんですよ。見返りを求めず亀を助けた浦島太郎は善人。その善人の彼ならば、一つのルールくらい破ることなく、自分に驕ることなく生きていけるだろうってね」
「そう、なんですか?」
「結婚も同じです。互いを裏切らないという、たった一つのルールさえ守れば、幸せは約束されています」
「それを旦那さんは守れなかったと……」
 Aさんは慣れていないのか、吸うタイミングを見失って短くなった煙草を灰皿に押し付けると、僕の目を真っ直ぐ見た。

「実は私も試したんですよ、彼を」そう呟くAさんの赤い唇が、妖しく艶めいて見えた。
「彼がお持ち帰りした女の子、私がお金で雇って近づかせた、サクラなんです」

 その一言に僕は、自分のことではないのに寿命を縮められたかのごとく、心臓の鼓動が早くなるのを感じたーー。


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このストーリーに関するコメント

17/04/05 文月めぐ

こんにちは。物語拝読いたしました。
夫婦関係を浦島太郎の物語に見立てた、面白い小説だと思いました。「一瞬にして彼の顔が老人みたく老け込んだんですよ」という文章は思わずうまいなあ、とうなるほどでした。

17/04/06 浅月庵

文月めぐ様

こんにちは。ご感想ありがとうございます!
どうにか現代の話で、まったく関係なさそうなところから
浦島太郎に繋げたいと思って書きました。
箱を開けての老人の部分は物語の肝だって思っていたので、
その部分を褒めていただけると嬉しいです!

17/04/08 あずみの白馬

拝読させていただきました。
女性の怖さをこれでもかと表現すると同時に、ちゃんと浦島太郎を活かされていると感じました。
非常に怖かったです。

17/04/08 あずみの白馬

拝読させていただきました。
女性の怖さをこれでもかと表現すると同時に、ちゃんと浦島太郎を活かされていると感じました。
非常に怖かったです。

17/04/10 浅月庵

あずみの白馬様
ご感想ありがとうございます!

女性って......怖いですよね笑
浦島太郎にどう絡めるか、かなり考えましたが
活かされてると言っていただけて嬉しいです。

17/04/12 霜月秋介

浅月庵さま、拝読しました。

現代の夫婦間のもつれと昔話をからめたお話、お見事でした。玉手箱を開けて老け込んだというくだりに思わず笑ってしまいました。面白かったです。うぷぷ

17/04/12 浅月庵

霜月秋介様
ご感想ありがとうございます!

どうにか現代の全然関係なさそうな話から
浦島太郎に繋げたかったので、
玉手箱のくだりを思いついた時はピーンときました笑
笑っていただけて良かったです!

17/04/27 滝沢朱音

こんばんは。「タマテバコタバコデストロイ」、めっちゃかっこいいタイトルにまず心惹かれました〜!
浦島太郎について考えるとき、玉手箱の意味とか、それを渡した乙姫の心境に思いをめぐらせますが、
このストーリーのように夫婦のモノガタリとして考えると、なるほど〜!と、とてもしっくりきました。
そしてAさんが吸う慣れない煙草→ラストで秘密を打ち明けたときの赤い唇。匂いや映像が鮮やかで印象的でした。

17/04/27 浅月庵

滝沢朱音様

ご感想ありがとうございます。
タイトルについては投稿した後にやりすぎ感があったな、と
少々後悔しましたが、かっこいいと言っていただけて良かったです(汗)
描写力に乏しいので、匂いや映像が印象的という感想は
思わず舞い上がってしまいます笑

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