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ひーろさん

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トランスフォーメーション

17/03/30 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 ひーろ 閲覧数:291

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 遮断機の向こう側に立つ女の人と目が合った。冷たく突き放すような目。ふいに視線を逸らした先に立つ幼い少年が、僕を見て笑い始めたような気がした。居た堪れなくなって俯くと、足元に蟻がうろついている。仲間のために何やら食べ物を運んでいるらしい。役立たずの自分とは対照的に見えて、不甲斐ない気持ちが胸を侵食する。さらに視線を脇に移すと、「左見て右見て渡れ」という注意書きが目に入る。前さえ見られない僕は、渡ってはいけないのだろうか。仕方なく空を見上げる。アパートとアパートの間から差し込むオレンジがやけにきれいで、思わず目をつぶった。
 学生時代の記憶が頭に浮かび上がる。授業中、数学の教科書に「ばか」「死ね」「くたばれ」と落書きされた。顔をしかめる僕を見て、ひそひそと笑い合うクラスメイトたち。掃除の時間には、ほこりの付着したぬれ雑巾を顔に押し付けられた。休み時間には、急にズボンを下ろされた。上靴を隠された。校庭の砂を鞄の中に詰め込まれた。周りのクラスメイトは終始見て見ぬふりを決め込んでいるようだった。彼らは、卑劣な加害者とは違うものの、こんな目に遭っている僕に対して、陰から蔑むような視線を向けてきた。誰も助けようとしてくれなかったのは、僕の表情や素振りがいけなかったのかもしれない。
 人と関わるのが苦手であるのは、こんな過去に起因しているのだろう。いつも他人の目を気にしている。もう疲れた。こんなに惨めで情けなくてくだらない僕を、どうすればいいのだろう。神様までも、僕のことを見て見ぬふりするつもりではないだろうか。
 威勢のいい踏切警報機の音が僕を煽る。同時に、突風が吹き抜けた。目を閉じたまま、遮断棒を手で押しのけ、僕はその中へ踏み込む。錆びたレールの真上に立つ。地面から身体に振動が伝う。さようなら。女の人と少年と蟻たちの悲鳴が耳に流れる。鉄の塊が身体を貫くような衝撃……。

 操縦席の前に並ぶボタンの中の一つを押すと、轟音とともに、電車がガシャガシャとトランスフォームを始めた。二両目と三両目の車両の連結が解かれ、共に前部がレールから少しずつ離れ、火花を散らしながらやがて直立し、地面から少し浮き上がった。僕の乗る一両目がそれらの上部にスライドし、激しく揺れながら直立の状態で連結した。さらに、四両目と五両目の連結が解かれ、吸い込まれるようにグルグル回転しながら一両目の両側にそれぞれ合体し、人型の巨大なロボットに変形した。最後に、僕の乗る操縦室が分離してユラユラと宙を舞い、やがてロボットの心臓部に収まった。
 突如として、巨大な黒い怪物が現れた。俯き加減で自信なさげなその佇まいは、まるで僕の分身のように思えた。ロボットはそいつと対峙した。コックピットで僕はロボットを操る。相手の動きは手に取るように分かった。迷いのない攻撃で相手を威圧し、あっという間に倒してしまった。それから、倒れこんだ怪物をそっと抱え、僕はロボットを操縦して空の彼方へと飛び去った。ロボットに対して、僕に対して、人々が賞賛し、感謝する声が微かに聞こえた。あの少年も、憧れの情を抱いてくれるかもしれないな……。

 空想が途切れた。同時に、思わず目を開いた。身体の奥に衝撃が走ったのだ。体中が熱くなる。知らぬ間に、オレンジ色の涙がこぼれていた。
 本当の僕は、この心だ。他人に見えているこの身体ではない。あくまでもこの身体は、ロボットの手足に過ぎない。見えないコックピットの中でそれを操っているこの心こそが、正真正銘の僕なのだ。誰にどう見られ、何と思われようと気にすることはない。もっと堂々と生きていけばいいではないか。
 いつの間にか遮断機は上がっている。隣に立つ少年が、泣いている僕の姿を不思議そうに見ている。が、何も気にする必要はないのだ。


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