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shimakenさん

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思い出の電車

17/03/29 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 shimaken 閲覧数:177

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 ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 電車の走る音がなんだか心地よく感じる……いつもならラジオで音楽を聴いているところだが、今日は違った。乗っている乗客は僕一人で、少し寂しかった。
 僕はカメラを手に持ち、電車がもうすぐ通る、ある場所を、今か今かと待ち続けていた。
 僕は県外の大学を受験し、無事に合格した。この春から新生活が始まる。しかし、始まりがあれば終わりがある。今乗っているこの電車は、何の縁か僕が引っ越しをする日に引退する。
 電車の引退は何年も前から話し合いが行われていた。だから、僕は心の準備ができていると思っていた。
 しかし、それは僕の想像でしかなかった。電車に乗る人は年々減っていった。もともと、車が生活の主流の地域のため、朝の通学や通勤で乗る人は僕一人で、その他は車を運転できない老人たちだった。その老人たちもこの数年の間に、入院や不幸があったりして乗らなくなってしまった。
 だから、僕はせめて写真に残そうと思った。乗っている時には気づけなかった、この電車から見える風景を……そして、それをある女の子に見せてあげたかった。
 ある女の子とは、二年前まで僕と一緒にこの電車に乗っていた村上優季さんという同級生の女の子だ。村上さんは十年前、Iターンで僕の住む町に来て、高校一年の春に入院してしまった。
 村上さんは生まれつき体が弱く、彼女のご両親が彼女の体を案じて引っ越してきたらしい。僕はそんな彼女と仲良くはなかったけど、一緒に通った仲間意識はあった。
 明日、疎遠になった彼女のもとにお見舞いに行き、この電車の話をして、写真を見てもらい、元気を出して欲しいと思った。

 ブーーン!

 トンネルに入る前に独特の音が聞こえた。この音を聞くのもあと少し……僕は感傷的になり、下を向いた。その時だった、オレンジ色の輝きが僕の瞳に伝わった。
 電車が山を越え、海岸沿いを走りだす……僕は席を立つと夢中でシャッターを切る……目から滴が落ち、カメラを濡らした。その輝きは再び山に入るまで続いた。とても幻想的で綺麗だった。
「泣かないって……決めてたんだけどな……」
 写真を撮り終わり、席に着くと独り言が思わず口をついて出る。笑顔でお別れ……今の僕にはそんなことできない。悲しいものは悲しい……だからこそ、ちゃんとお別れを言わないといけない。
「ありがとう……そして、お疲れ様……」
 僕は前が見えなくなった。瞳を濡らす滴が拭っても拭っても流れ落ち、僕の服を濡らした。
「さよなら……」
 小さく呟くと、ブーンと再び音がした。まるで、僕のお別れの言葉に答えてくれているようだった。
 僕は終点まで乗り、帰りも電車に乗った。行きとは打って変わって、星が綺麗だった。





 あれから、十数年たった。僕は大学卒業後、中堅の会社に就職し、三十歳で結婚した。そして、三十二歳の時に娘が生まれた。
 今日は五歳になる娘を連れ、家族三人でとあるところに向かっていた。
「パパー? まだ着かないの?」
「もうちょっと待ってね……もうすぐ着くから」
 僕は娘の頭を撫でながら答えた。窓の外がなんだか懐かしい。
「今日はどこに行くの?」
「うーん……パパとママの思い出、かなー」
「ふぅーん、よくわからない……」
 娘はあまり興味がないようだった。それもそうだ……僕は妻とアイコンタクトを取ると微笑んでいた。

「着いた! 着いた!」
 娘が駅に着くと走り回っていた。どうやら娘は乗り鉄ではないらしい。
 僕は娘と妻の手を繋ぎ、とある場所に連れて行った。
「うわー! おっきい!」
 娘が巨大な鉄の塊を見て、さっきまでの退屈そうな顔を忘れ、笑顔ではしゃいでいた。
「パパ! 乗っても良いの?」
「うん、乗っておいで! 写真を撮ってあげるから……」
「はぁーい!」
 娘は走って電車に乗った。僕は夢中でシャッターを切る。隣に立っていた妻が僕の背中にもたれ、小さな嗚咽を漏らしながら「よかった……また、会えた……」と、呟いていた。
 僕はそいつに触れる。そいつはもう何も言ってくれない。
「久しぶりだな……」
 あの日とは違う……僕は笑顔で電車に語りかけた。
 娘のはしゃでいる声がなんとも嬉しかった。


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