1. トップページ
  2. ディレクターズカット

猫春雨さん

現実世界の裏にひそむ不思議をお届けします。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

ディレクターズカット

17/03/29 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 猫春雨 閲覧数:356

この作品を評価する

 カンカンカンカン
 踏切で長らく足止めをされていた。
 電車は途切れることなく私の目の前を通過し、そのたびに車窓に過去の記憶が映し出される。
 ここを通過している電車は回送だ。
 私を降ろした電車は過去へとさかのぼり続けていた。
 いつ、この踏切を渡ることができるのだろう。
 辛い過去しか持たない私には、この延々と流れる映像は拷問に等しかった。
 そう、この電車は一本のフィルムだ。
 窓のひとつひとつに過去が刻まれていて、それがパラパラ漫画の要領で動画となっている。
 流れる映像は私がおぼえていない赤ん坊の頃にまで達していた。
 それを眺めていると不意に涙がこみ上げる。
 辛いからではない。
 母の、赤子の私を抱き上げる母親のいとおしそうな表情に涙腺を刺激されたから。
 てっきり母は私を嫌い憎んでいるものだと思い込んでいた。
 私を産んだせいで男に捨てられ、十代から苦労し、しまいには病気にわずらわされた。
 だから生前の母が寄越す眼差しはいつも憎々しげだった。
 お前を育てているのは警察に捕まらないためだよと、いつもお酒をあおりながら愚痴っていたものだ。
 それがあんな優しげな眼差しを向けてくれていたなんて……。
 やがて踏切の警報が止んでいることに気づく。
 バーが上がり、私の前に道がひらけた。
 私はうなずくと一歩踏み出し、ためらうことなく踏切を渡る。
 そして、今度こそ共に幸せに暮らす人生を夢見て、今一度同じ母親から生まれ直す人生を選んだ。
 
 おんぎゃあ!


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス