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出逢いは電車、恋という衝動。

17/03/29 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件  閲覧数:202

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 拝啓 貴女の名前の如き暖かい風を少しずつ感じるようになりました。春子様はいかがお過ごしでしょうか。
 思い返してみると、僕が貴女と初めて出会ったのも、今日のような春の入り口でした。十年前、僕たちはまだ高校生でしたね。通学電車に乗ってきた、長い襟のセーラー服に身を包んだ貴方はあまりにも綺麗で、僕は貴女に一目惚れしてしまいました。
 あの当時はまだ携帯電話も普及しておらず、どうすれば貴女にこの気持ちを伝えられるか日々模索しておりました。手紙をしたためるべきだと友人から言われましたが、僕は昔から文章を書くのがどうも苦手でしたから、あまり乗り気にはなれませんでした。それよりも僕の本当の気持ちを、そのままの形で伝えられないかと考えていましたが、結局なにもできずじまいでした。
 そんなある日、奇跡のような出来事が起こりました。貴女が話しかけてくれたのです。「いつも同じ電車で会いますね」
 襟と同じように長く伸びたつややかな黒髪をその片手でかき上げた貴女は、いつの間にか夏服になっていて、その健やかな腕までもが僕を虜にしました。僕は緊張のあまり、言葉が喉の奥に引っ掛かったまま出て来ませんでした。それから、貴女は何度も僕に話しかけてくれました。
 結局まともに話ができたのは、八度目くらいのときでした。そこで僕は貴女のことを多く知りました。「春子」という名前、近くの高校に通っていること、同い年だということ、休みの日は友達とよく買い物に出かけること、そして貴女を見る僕の目が犬のようで可笑しかったから話しかけてきたのだということ。
少し恥ずかしかったですが、同時に嬉しくもありました。
 いつしか僕は貴女と共に出かけることが多くなりました。好きな映画のジャンルが合わずに喧嘩になったこともありましたが、とても楽しい時間でした。
 しかし、貴女は大学に進学するとこの町を出て行きました。遠くへ行ってしまった貴女に、僕はどうしても気持ちを伝えたくて、拙いと知りながらも手紙を書きました。文章は支離滅裂で、しかも背伸びして使い慣れない言葉ばかりを用いたせいで、自分でも何を書いているのか定かではありませんでした。それでも貴女は丁寧な返事を書いてくれました。確か「何も知らない町で、貴方様の手紙だけがなんだか懐かしくって、ふと泣いてしまいそうになります」などと書いていました。
 その五年後でした。貴女が僕の知らぬ誰かに嫁ぐことを知ったのは。
 僕は深い悲しみに襲われました。本当に貴女が遠くへ行ってしまったのだと途方にくれました。しかしそれはまだ序章だということを、このときの僕は知る由もありませんでした。……

 ……故・春子様。僕は貴女との日々を忘れられないままです。葬儀会場で見た貴女の顔は、なぜか懐かしくって、どうしても涙が溢れて止まりませんでした。
 貴女と出会った時間の電車に乗って、僕はこの手紙を書いています。どれだけ離れていても、どれだけ支離滅裂な文章でも、貴女が丁寧に読んでくれたように、本当に会えない存在になった貴女にも、伝わるような気がするのです。今回は背伸びしない言葉遣いにしましたが、それでもきっと駄目な手紙なのでしょうね。貴女は笑ってくれるでしょうか。
 もう一度、貴女に会いたい。……



 以上が、○月△日にラッシュ・アワーのホームから飛び降り自殺をしたとみられる男性(27)の部屋に遺された手紙の全文である。文章中の「知る由もありませんでした」から「故・春子様」の部分は不自然に省略されており、また「もう一度、貴女に会いたい」以降の文章は手紙が破られて発見されていない。
 また、男性の部屋からは多数の写真が発見された。そのほとんどが同一の女性を撮ったものであったが、一枚を除いたすべての写真で女性の目線がカメラに合っていなかった。
 写真中の女性は、先月起きた殺人事件の被害者とみられる。その事件の犯人は特定に至っていなかった。
 女性の目線がカメラに合っていた唯一の写真は、死亡した男性と女性のツーショットで、写真に記載された日付は、女性が殺害された当日と一致した。
 自殺したとみられる男性と、先月の事件との関連性が現在調査中である。


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