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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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私は空気が読めない。

17/03/27 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:381

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「そんなのと結婚する意味あるの? それじゃあただのヒモじゃん?」
 私の発言に、恋人の愚痴を言っていた子が咄嗟に顔を顰めた。
 自虐風自慢だったのか、と気づいた時にはもう遅い。
「でもまあ好きだからね!」
 刺々しい声で彼女が言う。
 一気に冷えた声に、場の空気も一緒に凍った。
 ああ、また失敗した。
 後悔しても口から出た言葉が戻ることはなく、空中を漂うだけ。
 みんなの微妙な笑みと、消えてしまったお喋りの声になんとか挽回しないとと気持ちだけが先走る。そもそも、そんなスキルがあるのなら、こんな空気を作ったりはしないのに。
「お待たせしましたぁー、お刺身三点盛りでぇーす」
 舌足らずな店員の声に救われる。
「あ、お刺身!」
 同僚がはしゃいだ声をあげる。
「嬉しいー」
 安い居酒屋の、たいして美味しくもなさそうなお刺身にはしゃいだ声をあげる、彼女の優しさに救われる一方で、打ちのめされる。
 美味しもなさそうなお刺身だと思ってしまった、自分の空気の読めなさに。

 昔から、上手に生きていけない。言わなくてもいいことを言ってしまったり、言わなくちゃいけないことを言えなかったり。
 今は便利な言葉ができた。所謂、空気が読めない人間なのだ。
 本気の相談なのか、ただ慰めて欲しいのかがわからない。
 人が髪を切っても気づかない。
 節目節目で人間関係がリセットされる学生時代はよかったのだと、社会人になって気づいた。異動もない仕事場では、自分が動かない限り人間関係がリセットできない。
 最初は少しズレているで済ませてもらっていた言動も、そろそろ本当に空気が読めない馬鹿になるだろう。
 仕事中は気を使っているのに、飲み会などになるとやっぱり気が緩んでしまう。なら飲み会などに行かなければいいのだけれど、あまり行かないとそれはそれでに人付き合いが悪いと言われる。もしも仮に、来て欲しくないと思ってるなら社交辞令でも誘わないで欲しい。わからないんだから。
 それに、やっぱり期待してしまうのだ。今回はうまくできるんじゃないかって。
 まあ、出来ずに失敗するんだけど。

「さっきの、よく言ったね」
 トイレで一緒になった刺身の同僚に耳打ちされる。
「え?」
「あの子が別れた方がいいっていうのは、みんな思ってるじゃん?」
 じゃん? とか言われても、みんな彼女をなだめていただけだから知らないんだけど。
「でもそれ指摘するとああやって不機嫌になるじゃん? だからみんな黙ってたけどさ。言ってくれてスッキリしたよ」
 ケラケラと同僚が笑う。
 ああ、そんな風になっていたのか、と今初めて知る。それを押し隠して、
「とっさに口に出ちゃった」
 失敗したと笑ってみせる。
 今日の発言は失敗に数えなくていいだろうか、そんな風に考えながら。
 今日も私は、なんとか人間のフリをして生きている。


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