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若早称平さん

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星に願いを

17/03/27 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:2件 若早称平 閲覧数:512

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 太郎が帰ると言い出して寂しそうにしていた乙姫様が宝物庫から嬉々としてあの箱を持って来たのを見て嫌な予感がした。俺はのそのそと歩き側近のアンコウに尋ねたが、やはり太郎が地上に帰る手土産に玉手箱を渡すそうだ。
 生まれてこのかた竜宮城を出た事のない乙姫様は、いや地上と竜宮城とを行き来する俺とリュウグウノツカイ以外の者はおそらく外界の様子など知る由もないのだろう。俺は乙姫様を止めようと急いだが、当然間に合うはずもなかった。
「亀! ちょうど良かった!」
 すでに玉手箱を渡し終えた乙姫様が端から見ればゆっくりと歩く俺を見つけて駆け寄って来る。
「今夜太郎が帰るそうじゃ。すまんが送って行ってくれぬか?」
「仰せの通りに」
 俺は首を長く伸ばして頷く。元々頼まれなくてもそうするつもりだった。乙姫様の横で真っ黒な箱を持った俺の命の恩人はぺこりと頭を下げた。
「このような大層な物を頂きました」
 嬉しそうに俺に玉手箱を見せる彼を俺は切ない気持ちで見上げた。
「出発は夕食の後でよかろう。皆の者、宴の準備じゃ!」
 乙姫様の鶴の一声で皆が一斉に慌ただしく動き始めたのを横目に見ながら、俺はゆっくりと港へと向かった。

「亀さん」
 宴を抜け出してきたのか、港に佇む俺に太郎が声を掛けてきた。
「少し亀さんと話しをしたくて」と太郎が俺の横に座った。彼の差し出した酒をぐいっと飲み干す。
「楽しかったです。僕の人生でこんな事が起こるなんて本当に夢みたいで、亀さんのおかげです。ありがとうございました」
「礼を言うのはこっちの方だ。お前が居なきゃ俺は死んでたかもしれない」
「あいつら酷かったですよね」
 彼に救われたほんの三日前の事が随分昔のように思える。
「なあ、ずっとここに居てもいいんだぞ。言っちゃ悪いが帰ったところで貧しい暮らしが待ってるだけだろう?」
「それは間違いないです」と太郎は笑った。
「でもごめんなさい。ここはあくまで夢の世界で僕の本当の居場所じゃないんです。それに家族や友人達のいるあの村が僕結構好きなんですよ」
 屈託のない笑顔でそう言う太郎は人間にしておくには勿体ないくらいの好青年だった。でもだからこそ、やはり彼はここに居るべきではないのだと俺は思い直した。
「なあ、その玉手箱がなんなのか聞いたか?」
「はい、何でも願いを叶えてくれると伺いましたけど……」
「太郎! ここに居たのか」
 ほろ酔いで上機嫌の乙姫様が割り込み、太郎の腕を引っ張る。
「もう一度腹踊りを見せてくれぬか!?」
 太郎は「仕方ないですね」と立ち上がり、俺に済まなそうに会釈をして宴の会場へ戻って行った。

 一度だけ、開けた者の願いを叶えてくれる玉手箱はこの竜宮城でも一、二を争う貴重な宝だった。生まれ初めて会う地上からの客人、乙姫様の気に入りようを見れば太郎にそれを渡すのも頷ける。
 しかし、彼の危ういまでの純粋さは、おそらく変わり果てた地上の風景と相まって彼を追い詰め、破滅へと誘うだろう。願いは呪いに変わってしまうかもしれない。彼の求める、彼の居場所はもうどこにもないのだから。

「なあ」と俺の甲羅にまたがる太郎を呼ぶ。眠そうな目を擦りながら彼は「はい」と返事をした。
「乙姫様からの伝言だが、その箱は絶対に開けるなよ」
 俺のせめてもの嘘に太郎は少し間を置いて「分かりました」と答えた。水面が近づいてきたが地上も夜なのだろうか、周りは真っ暗だった。泳ぐ速度を上げたせいでこれから俺が言う言葉は彼には聞こえないだろう。
「これからお前が帰る地上はもうお前の知っている世界ではないだろう。お前は混乱し、孤独を味わい、そして絶望するかもしれない。でもこれだけは覚えていてくれ。お前が生きている限り海の底でお前の事を思っている者達が居る事を。お前は決して一人じゃないという事を。そしてお前はどんな世界でも生きて行ける強い人間だという事を。竜宮城にだってすぐに慣れたじゃないか」
 さばーん! という大きな音と共に水面に出た。太郎と出会った砂浜まで無言で送ると太郎は「ありがとうございました」と深々と頭を下げた。「何度も言うが礼を言うのはこっちの方だ」俺はさっきの言葉をもう一度言おうとして飲み込む。それは別れの言葉にふさわしくない。
「もしも……もう一度会えたら、俺にも腹踊りってのを見せてくれよ」
「もちろんです」と太郎は笑った。

 太郎を見送った俺は甲羅から煙草と火打ち石を取り出した。竜宮城は禁煙だからこんな時にしか吸えないのだ。そういえば太郎と出会ったあの日もこんな風に煙草を吸っていたな。
 吐き出す煙の向こうでは何百年も変わらず輝き続ける満天の星空が広がっていた。俺は玉手箱なんて持っていないから、地上に住む者達がそうするように、これからの彼の幸せをその星々に願った。


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このストーリーに関するコメント

17/03/27 まー

亀視点の浦島太郎、面白かったです。
亀が煙草吸ってんじゃねーよって感じで虐められたのでしょう(笑)。

17/03/27 若早称平

まーさんコメントありがとうございます☺
ハードボイルド気味の亀でも人間には勝てませんから(笑)

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