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八王子さん

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帰る場所

17/03/27 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 八王子 閲覧数:140

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 子供の頃、これに乗ればどこへでも連れて行ってくれると思っていた。
 おばあちゃんの家。
 遊園地。
 海に山。
 父と母と三人で。
 でも、大人になる前に知ってしまった。
 自分の足ではとても歩いて行けない場所に連れて行ってくれる電車にも限界があることを。
 どこにでも行けると思った電車は、敷かれたレールの上を走るしかなかった。

 子供の頃の夢は、車掌さんだった。
 電車の写真がいっぱい写った本を買ってもらって、旅行に行く時も、遊びに行く時も、ボロボロになっても、いつも持ち歩いていた。
 滅多に見ることができない電車のお医者さん、ドクターイエローを見た時はたくさん写真を撮ってもらった。
 その当時は、走る電車の名前を全部言えたのに、二〇年も経ってしまえば走る電車は変わり、電車を見る度に目を輝かせるような無垢な心は失った大人になっていた。

 子供の頃、あれだけ好きだった電車に毎日乗れるようになったのに、電車が嫌いになった。
 毎日会社と家との往復でしか電車に乗らないから、楽しいなんて気持ちはどこかに失せた。
「どこかに行きたいな」
 体の自由が利かないぐらいの満員電車の中、ドアに手をついて体を支えながら、酸素を求めるように上を見れば視界に飛び込んでくる、紅葉が綺麗な山の広告。
 その最寄り駅までのルートが簡単に記されている。
 休みはあれど行く体力も、一緒に行く人もいない。
 昔は電車に乗って休みの日に家族揃って出かけることが大好きだったのに。
「はあ」
 目的の駅に着いて、心地よく感じる外の冷たい空気に喜びを覚えるが、こんなことが幸せなのかと思ってしまう現実にため息が出た。
 電車が走り去るのを背中で感じながら、改札口に向かって歩き出そうとすると背中を遠慮がちに掴まれる。
「あの、先ほどはありがとうございました」
 振り返ると、どこかの私立の制服を着てランドセルを背負った小さな女の子がいた。
「へ?」
「満員電車で潰されそうになっていたところを助けてくれて」
「あ、ああ……」
 腕をついて上を見上げていた時、そういえば体は奥に入れないのに目の前にはスペースがあった。たぶんランドセルが体に当たっていたのだろう。
「ただの偶然だよ」
「おじさんって――あ、お兄さんって電車が好きなんですか?」
 小学生に気を使われた?
「そのカバンについてるプレート可愛いですね」
 電車を正面から切り取ったイラスト風のキーホルダーだ。
 子供の頃から電車が好きで、持ち物にはなにかと電車の写真が入っていたり、電車に関連するグッズなんかを集めていた。
 カバンにつけたのも、みんな似たようなものを持っているので、自分のだとすぐにわかるようにと、入社した時からぶら下げていたものだ。
「可愛いか? ただの電車だぞ」
「だって電車っていつも横からしか乗れないから、正面からはなかなか見れませんし。そういうお顔をしていたんだなって」
「顔か……」
 新幹線のような特徴のある先頭車両ならまだしも、普通電車の正面は細長いカステラのようにただの長方形だ。

 私立の小学校に通ういいところの女の子は、軽く会釈をして改札の方へと歩いて行った。
「電車が可愛いか」
 子供の頃、今はもう走っていない寝台特急ブルートレインが好きで、新幹線よりも先にプラレールのおもちゃを買ってもらった。
 男の子なので電車に「かわいい」とは思わなかったが「かっこいい」とは思った。
 大人になった今なら、飛行機で数時間で行けるような場所に、寝台特急で何倍もの時間をかけて行くことに不合理さのようなものを感じてしまう。
「かっこよくて、速くなくたっていいんだよな」
 かわいくて、ゆっくりだって、同じ電車だ。
 敷かれたレールの上を規則正しく走る電車。
 僕は電車に携わる仕事に就くことはできなかったけど、毎日電車に乗れている。
「電車ってすごいんだな」

 かっこよくてすごいから、大人になった僕には、
 便利ですごい、に変わっただけで、電車のすごさはなにも変わっていないんだ。
 毎日ありがとう。これからもよろしく。

(了)


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