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まきのでらさん

某老舗同人集団所属。 キャリアだけは無駄に長いです。 よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 作家
座右の銘 特に無し。

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ブラックホールを抱いて寝る。

17/03/26 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 まきのでら 閲覧数:200

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 必然的に人生の失敗を思わねばならぬ夜、僕は並大抵ではない疲弊と絶望を詰め込んだ袋を背負って帰宅する。
 袋の中には『負』が詰まっている。
『負』というやつは厄介な代物で、飯を食っても酒を呑んでも袋はしぼんでくれず、軽くはならない。そればかりかより一層の重みを切ないくらいに蓄えてしまう。
 そんな時、僕は早々と寝てしまうことにする。
 寝るが勝ち、というやつである。睡眠というのはすごいもので、溜まりに溜まった『負』の袋が少しは軽くなってくれる。寝ている間に袋がしぼみ、中身が霧散してしまうように。
 しかし、それも眠れればの話。
 ひたすらに失敗が重なって苦しみが募りすぎた夜は、睡魔すらも訪れてはくれない。
 そんな時、僕はイメージのちからに頼る。僕は布団を丸めて腕と足を使ってギュウギュウ抱くと、その中心に真っ黒な闇を思い浮かべる。
 その闇はグルグルとぐろを巻くブラックホールで、僕の背負う『負』の詰まった袋から、中身をずんずん吸い取ってくれる。ずんずん吸って袋が軽くなると、終いには袋そのものも吸い込んでしまう。
 ブラックホールはそれでも消えては無くならず、僕の抱いた布団を中心にしてこの世の様々な「いらないもの」を吸い込んでいく。「いらないもの」は僕の主観だ。道徳とか倫理とか、細かいことはどうでもいい。
 
 とにかく吸い込んでずんずんずんずん。

 段々と僕は気持ちが良くなってくる。
 そうなるともう「いる」「いらない」なんて区切りはどうでもよくなり、ブラックホールはどんどん膨張、暴走し、僕と布団以外の何もかもを吸い取る。そんな一大カタストロフの中で、僕はブラックホールを抱いているつもりが、いつの間にかブラックホールに抱かれていることに気付く。
 そこでいつしかまどろんで、目覚めれば朝だ。
 このイメージは、夢と現(うつつ)との境目を彷徨するような形で締めくくられる。
 ブラックホールを抱いて寝た夜は、次の日不思議と気分良く起きられる。根本的には何ひとつ解決していないにも関わらず。
 僕は爽快な気分で身体を起こし、カーテンを開けて朝日を浴びる。
 昨日の失敗がウソのようだ。
 そしてまた仕事に出掛ける。
 今は手ブラだが、きっと帰る頃にはたんまりと『負』の詰まった袋を携えていることだろう。
 何、その時はまた、ブラックホールを抱いて眠るだけのことだ。

 ふと部屋の隅を見ると、グルグル渦巻く塊があった。
 一瞬ギョッとしたが、それは溜まって滞った埃の玉だった。
 窓を開けると、つむじのような埃の玉は風に吹かれて外へ飛んでいった。
 宙に浮かぶ黒点は、さながら小さいブラックホールのようだった。 了


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