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甘水 甘さん

普段は「甘色論理」という名前で音楽活動していますが、創作力の訓練もかねて小説も書きます。 twitter:@kanshikironri

性別 女性
将来の夢 音楽制作関係とか小説家とか、何か創作できる仕事に就けたら理想だなぁ
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こみさき駅

17/03/23 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 甘水 甘 閲覧数:182

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 僕は転勤のため5日前に引越しをした。
 引越し先はとある小さな町だ。大きな都市へのアクセスは少々悪いが、町の人々は優しいし、不便はない。とてもいい町だ。
 しかし、1つだけ気になっていることがある。それは、通勤時に見る謎の駅のことだ。
 僕の職場は今の住居から2駅先にある(本当はもっと近くに部屋を借りたかったけど、何故か今の住居しか借りられなかった)。だから当然仕事に行くためには電車に乗らなくてはならない。電車に揺られて1つ目の駅を抜けると短いトンネルが2つ続く。このトンネルを抜けると職場のある駅に着くのだが、謎の駅はその途中にある。
 その駅の名は「こみさき」という。
 1つ目の駅と職場のある駅の道中にある2つのトンネルの中間点にある。その駅で人は見たことがないが、無人駅というには造りがしっかりしているし、そこそこ大きい駅なのだが、その駅に電車は絶対に止まらない。理由は簡単だ、その駅は路線図に載っていない。また、インターネットや図書館などで調べてみても手がかりなし。廃駅にしては綺麗な駅だし、不思議だ。
 ある日、仲のいい同僚の田口にこみさき駅について聞いてみた。
「こみさき駅?」
田口はきょとんとした表情を浮かべる。昼食を食べる手がピタッと止まった。
「うん、『こみさき』って書いてあったから、多分こみさき駅だと思うんだけど」
「いや、知らないけど」
田口は首を横に振る。
「え?でも君、僕と帰る方向一緒だよね?降りる駅も一緒だし」
「まあそうだけど、でも、そんな駅知らないよ?見たことないし」
僕は戸惑いを隠せなかった。田口ならこみさき駅について何か知っていると思ったのに、知らないとはどういうことなのだろうか?
「岩崎さん、田口さん、どうしたんですか?」
田口との間に気まずい空気が流れていた中、後輩の小滝が声をかけてきた。
「いや、岩崎がこの辺にこみさき駅っていう駅があるって言うんだけど……」
「こみさき駅?岩崎さん、その話もう少し詳しく聞かせてくれませんか?」
田口の説明を受け、小滝は僕に話を促す。僕はこみさき駅について知っていることを全て話した。
「成程、ちょっと待ってください」
小滝は自分のデスクに戻る、そして何かを持って戻ってきた。
「岩崎さん、今日から電車に乗るときは必ずこれを持って乗車してください。いいですか?絶対ですよ」
そういって小滝は僕に何かを握らせる。それは小さなお守りだった。そして、小滝は「では失礼します。必ず持っていってくださいね」といって去っていった。
「岩崎、さっきの小滝の言いつけ。絶対守った方がいいぞ」
田口は僕に耳打ちをする。何で?と聞くと、田口はこういった。
「あいつは由緒ある神社の息子さんだからな。あいつがお守りを自ら渡すってことはよっぽどのことだと思うぜ」
僕はこれを聞いて、少し怖くなった。
 次の日、僕は早速お守りを持って会社へ向かった。いつもの駅からいつもの電車に乗る。そして1つ目の駅を過ぎ、1つ目のトンネルを通過、そして……。
「あれ?」
止まった。そう、電車はこみさき駅で止まった。そして、ドアが開く。
 ドアの外はとても美しく、僕は無意識に電車の外へ出てしまう。
「あ」
気がついた時には、電車は遠くに消えていった。どうしよう……僕は不安になる。
「いらっしゃいませ」
そんな中、一人の駅員の男が僕の元へ駆け寄る。駅員の容姿はとても美しく、思わず見とれてしまうほどだった。
 駅員は最初、にこやかな様子だったが、何かを感じ取ったのか急に「すみません!間違えました!」と申し訳なさそうに謝る。
 何を間違えたの?と聞こうとしたが、突然景色が歪み
「……え?」
気がつくと、僕はいつも下車する駅で立ち尽くしていた。
 この出来事を小滝に言うと
「やっぱり……それ『こみさき様』ですよ」
といって、説明をしてくれた。
 こみさき様はこの地域の神様で、たまに人を誘い込むことがあるという。
「昔はこみさき関所って言われていたんですけどね。信仰されなくなって何十年も現れてなかったけど、まさか駅として現れるとは……そういえば岩崎さんはこの町に来たばかりですよね。だから岩崎さんが狙われたのかも。まあ、あのお守りで守っているから、もう誘われることはないと思いますよ」
と、小滝は言う。僕は「そうか、ありがとう」と曖昧にお礼を言う。
 その夜、僕は小滝から貰ったお守りを捨てた。
 ゴミ箱に埋もれたお守りに、朦朧とした意識の中で見た、こみさき駅の駅員の悲しげな笑顔が重なる。
 また、あの駅に降りられたらいいな。そうしたら、世間話でもしたいな。
 そう思いながら、あの不思議な駅を想う。


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