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かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 愛は時空を超える

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無人電車

17/03/23 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:2件 かわ珠 閲覧数:221

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「……は?」
 目が覚めると、周りには誰もいなかった。窓の外は真っ暗で、この電車が今どこを走っているのかわからない。
「寝過ごしちゃったか……」
 大きく伸びをして、頭を掻く。そして、あくびを一つして、ようやく頭が回転し始める。仕事帰りのスーツ姿のままだったせいか、左肩が痛い。今、この電車はどこを走っているのか確認しなければ。ドアの上の車内案内表示に目を向ける。
「あれ……?」
 けれども、そこには何も表示されていなかった。壊れているのだろうか。辺りを見回す。すべてのドアの上の車内案内表示は黒く、何も表示されていない。すべての車内案内表示が同時に壊れてしまっている、なんてことがあるのだろうか。
 と、思っていると窓の外が明るくなった。駅に着いたようだ。ホッとして扉に近付く。けれども、そこで違和感に気付く。
「なん……で?」
 電車が減速していない。
 どこの駅なのか確かめようとその駅名を見ようとしたものの、残念ながら平均以下の動体視力しか持ち合わせていない僕には、高速で流れていくその駅名を読み取れなかった。その駅の光景も見たことが無いものだった。
 急速に広がっていく不安。
 僕は、いったいどんな状況に置かれているのか、今この電車はどこを走っているのか。まずはそれを整理しよう。
 今日は会社を出たのが遅かった。最近は忙しくて、残業続きだったものの、トラブルが重なり、今日は特に遅くなっていた。さすがにこのままでは終電に間に合わなくなる、と慌てて会社を出て、ギリギリ終電に間に合ったのだ。けれども、それまでの疲労が祟って、あっという間に眠りに落ちてしまった。
 そして、この無人電車だ。
 無人電車。
 つい最近その話を聞いたことがあったのを思い出す。確か、後輩から聞かされた話だ。


/回想
 その電車に乗った男は、仕事の疲れもあってか、座席に座るとすぐに眠ってしまった。
 そして、目が覚めると、その電車は無人になっていた。
 まあ、たまたま自分以外の乗客がいなくなることだってあるだろう、と男は深く考えなかった。とりあえず、今はどのあたりを走っているのか確かめようと窓の外を眺めるものの、電車はまったく駅に着く気配を見せない。
 さすがに少し不安を覚えてきた男は、最後尾の車両に行き、車掌に話を聞こうと思った。しかし、そこに車掌はいなかった。
 男の心拍数は徐々に上昇し始めている。
 今度は先頭車両に向かうことにした。たまたま、先頭の運転手に何かの連絡があるか、なにかの業務で車掌も運転席にいるのだろう、と自分に言い聞かせながら。
 しかし、そこにも車掌の姿は無かった。それどころか、運転手の姿までも見当たらなかった。
 どういうことだ、と男はその時点でパニックになった。
 男はわめき続ける。
「ここから出せ、電車を止めろ、俺を降ろせ!」
 そうして暴れ続ける男の肩に手が置かれた。
 男は驚いて振り返る。すると、そこには制服を着た男が立っていた。男は安心して、その制服の男に話し掛ける。
 けれども、制服の男は言葉が届いていないかのようにうつむいたまま、なにかぶつぶつと呟いている。気味が悪くなって、男は制服の男から離れた。制服の男はずっと何かを呟き続ける。その声は、徐々に大きくなってきて、ついにはっきりとした言葉となって男の耳に届いた。
「なんで生者が乗っているんだよ! おかしいだろ! これは死者のための電車だろうが! お前も死にたいのか!!」
 それが、男の聞いた最後の言葉になったのだという……

   *   *   *

 今、自分が置かれている状況と全く同じだ。
 まさか、自分が? この電車が後輩から聞いた死の電車なのか?
 車内には走行音と自分の呼吸音しか聞こえてこない。どうすればこの状況から抜け出せるのか。どうすれば死なずに済むのか。あの時、後輩の話の中に何かヒントはなかったか。なんとか助かるための方法を考える。
 突然、連結部の扉が開く。僕は驚き、自然と目はそちらを向く。そこに、制服を着た男が立っていた。
 ああ、これはいよいよマズい!
 死は目前に迫っている。
「ああ、しまったな。まだ人が残っていたのか。さっき見回ったときに見落としたか……」
 と、制服の男は呟いて近付いてくる。その姿は僕にはもはや死神にしか見えない。
 もう、助かるために出来ることはただ謝るしかなくて、みっともなく、惨めにその場に泣き崩れた。
「すみません、許してください! 間違えてしまったんです! なにもしませんし、なにも言いません! だから降ろしてください! お願いします! なんでもしますから!」
 そう喚く僕の前に立ち、制服を着た男は言った。
「あの、コレ回送電車なんですよ」
「…………………………え?」

――電車に乗る時には寝過ごしに気をつけよう。


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このストーリーに関するコメント

17/03/23 まー

主人公の慌てふためきっぷりが笑えます。たぶん車掌さんも少し引いたんではないかと(笑)。
面白い作品でした。

17/03/23 かわ珠

コメント、ありがとうございます。
まあ、冷静になれば分かるはずなんですけどね(笑)
疲れ、寝起きの頭、後輩から聞いたばかりの話、そういったものが重なった結果の悲劇(喜劇)ですね。

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