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田中あららさん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 仏ほっとけ、神かまうな

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電車デート

17/03/22 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 田中あらら 閲覧数:220

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「危険!使用禁止!」の看板のたてられた壊れた吊り橋を渡ろうとする人はいない。それにとっくに見た目にも渡れないことがわかるほど朽ちていた。かつて吊り橋は、隣の村に行く近道であり、それが唯一の道だった。10kmあまり下流に橋ができ、車社会となってからは使われることが少なくなり、朽ちていくままになった。
 下流の橋の横には鉄橋があり、3両編成の黄色い電車が走っている。全線20kmの小さな路線は、旅客用としてだけでなく、終着駅の鉱山からの貨物用として作られたが、トラック輸送に置き替えられたことで、今は田舎を走るかわいい電車として一部の電車マニアに知られている他、他市に通う高校生の足となっている。
 時代とともに両集落の交流は希薄になっていったが、盛んに行き来をし、お嫁に行ったり来たりした時代もあった。今でも親戚の墓参りに来る人がいる。墓地は山の上にあり、街を見下ろすことができた。右手にはうねうねと川が蛇行し、橋がかかっているのが小さく見える。街の中心部あたりに駅がある。この集落から駅まではバスで出るのだが、通勤や買い物など、生活のほとんどは自家用車を使っている。

 翔子が祖母に付き添って、墓参りをした時のことだった。見知らぬ老人が墓に手を合わせていた。グレーのコートを着て帽子をかぶった、品の良さそうな男性だった。祖母が小首を傾げ、考えるような仕草をしたが、何も言わず軽く頭を下げ老人の脇を通り過ぎたので、翔子も後に続いた。
 墓参りを済ませると声をかけられた。
「百合さんじゃありませんか」
祖母は大きく目を開き「やっぱりシンさんでしたか」と答えた。
「懐かしいですね。そちらはお孫さんですか」
「はい、孫の翔子です」翔子はハキハキと返事をした。
祖母がシンさんと呼んだ老人は、翔子にうなずいた。
「お元気そうですね」
「おかげさまで元気にしております。シンさんもお元気そうで」
「ええ、なんとかやっております」二人は静かに微笑みあった。
「この辺りも変わりましたね。お墓も公園みたいになって」
「はい、お墓参りを楽しめるように、檀家が整備したんです。ベンチもあるし、あずまやでお弁当食べたり」
「そうでしたか。お弁当を持って来たらよかったなあ」
「あら、今日はゆっくりしようと思って、作ってきたんですよ。よろしければ一緒にいかがですか。せっかく遠いところからいらしたんですから」祖母はシンさんを誘った。
「どうぞどうぞ、たくさんありますから、ぜひ食べてください」と翔子も促した。
 先ほどからの会話や表情から、二人が昔馴染みであり、再会を喜んでいる様子であることを翔子は悟った。
「ありがとうございます。厚かましいことですが、喜んでいただきます」シンさんは申し出を受けた。

 お弁当のおいなりさんや卵焼きを食べながら、シンさんは「うまい、うまい」を繰り返し、妻が亡くなってから一人暮らしでね、とつぶやいた。
 シンさんは吊り橋の向こうの集落に、太平洋戦争末期疎開して来た少年だった。祖母とは同じ小学校に通い、一緒に遊んだ。戦争が終わり、シンさんは家族とともに焼け野原になった町に帰っていったと言う。
「それにしても、60年経ってるのに、祖母のことよくわかりましたね」と翔子が聞くと、「ええ、あなたに百合さんの面影があるから」とシンさんは答えた。
 すると「シンさんは、雰囲気でわかったわよ」と祖母が言った。
「しばらく文通していたわよね」いつの間にか友達言葉になっていた。
「懐かしいね。百合さんの結婚が決まって、文通をやめたんだったな」
 翔子は驚き「え、文通?」と言うと、「昔は携帯電話もなければ、メールもなかったから、連絡手段は手紙だったのよ」と祖母は答えた。
「あの頃はまだ電車は走ってなかったけど、時々あの線路のずっと向こうにシンさんがいるって思ったものよ」祖母ははるか向こうの駅を見つめた。
「僕もそう思っていたよ。疎開の思い出といえば、百合さんと近所の悪たれ小僧たちと遊んだことだからねえ」といい、駅の方角に視線を向けた。
「親戚の家には2、3度顔を出したんだよ。叔父が亡くなった時とかにね。こちらにある母の実家の墓にはなかなか来れなくてね」
「あの吊り橋を男の子たちが揺らすから怖くて。シンさんが男の子たちに『やめろ』って。優しかったのよ」振り向いた祖母は妙に華やいで見えた。二人の年齢からすると、当時は恋人未満の、ほのかな恋心を抱く関係だったのかもしれないと、翔子は思った。
 帰り際、シンさんが祖母を誘った。
「今度沿線探索に出かけてみませんか」
 戸惑っている祖母の代わりに、翔子が茶目っ気たっぷりに答えた。
「もうすぐ桜も咲くし、沿線探索楽しそうですね。お互い独身なんだから、電車デートいいじゃないですか。ちゃんとエスコートしてあげてくださいね、シンさん」


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