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黒丞さん

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day break

17/03/21 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 黒丞 閲覧数:195

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『アナタの失敗買取ります。』
そんないかにも怪しくて胡散臭いサービスがスタートして早十年。この世界には『失敗』がなくなった。
試験や就職活動で泣きを見ることもなければ、恋愛だって思った通りに成就してしまう。とっても理想的で、素敵な世界になったというわけだ。
失敗の買取りシステムはとても簡単。ネット環境があれば誰でも申し込み可能だ。ホームページの所定のフォームから、自分が予測する最悪の失敗を事前に送信し、査定を申込む。するとそれを元に、予測される『失敗』の大小が選別され、それに応じた金額が支払われることになっている。そして、本当に不思議なことに、その買い取られた『失敗』は絶対に起こることがなく、みんなが失敗を恐れず、安心してハッピーに暮らせる社会になったわけだ。
『失敗』を帳消しにしてもらえるばかりか、その『失敗』が自分の収入になるのだから、喜ばない人間がいないわけがなかったこのサービス。しかし、これのおかげで誰もが幸せかというとそうでもない。僕、早瀬凌は、こんな世界にうんざりしている人間の一人だ。今日もこれ見よがしに溜息を吐いては「僕はなんて不幸なんだ!」と悲劇のヒーローぶっているところ。
さて、なぜ僕がこのサービスを憎々しく思っているのかというと、自分がこの噂の胡散臭い『失敗買取り会社』に勤めているからだ。
勤続年数まだ3年に満たない僕だが、心底このサービスに絶望してしまった。こんなの実にくだらないということだと教えてあげたいくらいだが、そんなことをしてしまうと自分のボーナスに響いてしまう。だから黙っておく。綺麗事を言いながら、自分も自分が可愛いだけなのだな、なんて妙な納得をしながら、今日も業務にとりかかった。
業務、といっても僕の仕事は、送られてくる回避したい『失敗』を右から左に読んで、仕事・恋愛・人間関係などのカテゴリに振り分けていくだけの簡単なものだ。「〇〇くんに告白して振られる」だとか、「明日のプレゼンでへまをする」とか、「〇〇さんのご機嫌を損ねる」とか、人々の恐怖する『失敗』は実に小さく、自分でどうにか解決できそうなことだって、いまやこの会社頼み。うんざりしつつも、どんどん振り分けをしていくしかない。
さて、重要な『失敗』回避の方法だが、もうほんとにこれは単純明解。本人が『失敗』しないようにするだけなのだ。ぼくも入社当時は狐につままれたような気分になった。しかし、世の中の人間の失敗買取りシステムに対する信頼は絶対。ここから先はもう自己暗示に近い。システムに書き込んだのだから、失敗するはずがない。そんな絶対的な自信がその人を輝かせるのか、その成功率100パーセント。あとは、失敗を恐れる気持ちを痛いほど知っている周りの人間の気遣いがこのサービスを成り立たせている。例えばある女の子が告白をしたとする。相手の男の子は別にその子のことなんて好きじゃない。しかし、自分が断ればその子は『失敗』をしたことになってしまう。それなら、ぼくがオッケーすれば良いだけじゃないか、というように上手く歯車が合って、このシステムは回っている状態。
自分が『失敗』しない世界は誰もが望んだもの。その均衡が守られるためなら、多少の自己犠牲は厭わない人々の心をうまくついたビジネスで、いまやこの会社のスポンサーは絶えない。いま、みんなが恐れているのは、このシステムが終わって、『失敗』が明るみに出ることなのだ。誰かがこんなの間違っていると口に出そうものなら、刑務所にぶち込まれてしまうかもしれない、とさえ思う。
もう僕には『失敗』が何なのかわからない。好きでもない人と付き合うことや買いたくもないものを買うこと、誰かの『失敗』を帳消しにするのが、みんなの望んだ幸せだったのだろうか。ぼくは静かに目を瞑ると、そっと自社の買取り内容送信画面を開き、こう打ち込んだ。
「明日、全世界の『失敗』が『成功』になる。」
さあ、ぼくに『失敗』させてくれるなよ。我が社信頼の商品よ。


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