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ゆえむさん

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ダイヤ泥棒

17/03/21 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:1件 ゆえむ 閲覧数:184

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僕は電車が嫌いだ。

電車はいつも、僕から大事なもの持ち去っていく。僕だけを、このホームに置き去りにして。

幼少の頃、父は単身赴任で僕の元を去った。その後父は直ぐに事故で死んだ。二度と会えることは無かった。
嫌に軽快な音を立てた自動ドアが閉まる。父の笑顔と、僕の泣き顔がドア1枚で隔てられて。あいつは持っていってしまった。僕の大切を。

高校生の頃。大好きだった彼女がいた。でも卒業後、彼女は自分の学びたいものを学ぶために都会へと出ていった。その地で出会った男と浮気でもしたのだろう。それっきり、僕の元に連絡が来ることは無かった。
空気が抜けるような音を立てて自動ドアが閉まる。彼女の笑顔と、僕の苦笑いがドア1枚で隔てられて。あいつは持っていってしまった。僕の大好きを。

『間もなく、二番線に――』

起伏のないアナウンスがホームに木霊する。到着の合図にスマホ片手に誘導ブロックの上に立つ人。急いで階段を駆け上がってくる人。子供と仲睦まじそうに歩いてくる母親。腕を組んで肩を寄せ合い、到着を待つカップル。
色んな人間が、ここには集まる。きっとこの人達にも、なにか大切なものがある。大好きなものがある。大事なものが、ある。

そうしていつか、それは持ち去られてしまう。レールと車輪を磨り減らせながら、鬱陶しく鳴き喚くこいつに。

なら、そうなるなら。
この世界の大事ななにかを、先に持ち去ってしまえばいい。

ざまあみろ。今度は、僕の番だ。





――僕は電車が嫌いだ。
電車はいつも、僕から大事なもの持ち去っていく。
そうして最後は、全てを。こいつは僕さえも、持ち去っていった。


ホームには、喧騒の後の静かな風だけが、置き去りにされていた。


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このストーリーに関するコメント

17/03/29 猫春雨

ダイヤ泥棒というアイディアが秀逸です!
それをそのまま使うことなく表す叙情的な文章センスにも惹かれました。

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