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黒猫千鶴さん

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キンセンカの花束をあなたに

17/03/20 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:1件 黒猫千鶴 閲覧数:757

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 大きな花束を抱いて、屋上に続く階段を一つずつ上がって行く。革靴が音を立てる度に、嫌な声が再生された。

『こんなことも出来ないのか!』

 怒鳴る上司の声。

『これもやっておいて』

 仕事を押し付ける先輩の声。
 僕を非難する声が響く。直せと言われたから直したのに、文句を言われる。どうして、また意見を変えるんだよ。疑問をぶつけても答えてもらえない。だから何も言わなくなって、ただ従うだけ。それなのに、全てを否定される。もう、どうしたらいいのかわからなくなった。

「すみません……」

 謝罪も言い慣れた。気付けばこれが口癖になっていた。
 溜め息を吐いて、ドアノブに触れる。

「もう……決めたんだ」

 ドアを勢いよく開けると、冷たい風が僕の頬を撫でた。黄色い花びらが散って、後ろへと飛んでいく。
 屋上に足を踏み入れると、花束の包み紙が音を鳴らす。

『また一から作り直せ』

 乱暴に放り投げられた資料が空を舞い、そのまま床に落ちていく。僕はそれを見つめることしか出来ない。頭を下げて謝る僕は、拳を強く握り締めた。
 言われた通りにやれば「考えてやれ」と怒鳴られる。僕なりに試行錯誤して作成すれば「言われた通りにやれ」と怒られる。

「千紘(ちひろ)君!」

 柵に手をかけた瞬間、懐かしい声が訊こえた。後ろを振り返ると、黒いスーツを着た女性が、肩を上下に動かして乱れた呼吸を整えている。それはたった一人の味方だった。

「どうしたんですか、菜津美(なつみ)先輩。そんなに慌てて……」
「慌てるでしょ! こんなメールもらったら、くるでしょ!」

 菜津美先輩はスマホを僕に見せつけるように、突き出した。

『ありがとうございました、疲れました 千紘』

 ついさっき書いて送ったばかりのメール。

「きてくれたんですね」
「そりゃ……」
「先輩としてですか? それとも他の人に知られたくないからですか?」
「――っ!」

 その後に送ったメールには、今までの先輩や上司からの嫌なことを書き記した。それだけじゃない、菜津美先輩が僕にしたことも全て送ってある。

「あなたはそういう人だ」

 僕は静かに背中を反らしていく。菜津美先輩の姿が視界から消えると同時に、暗い空と僕の革靴のつま先が見えた。
 持っていた花束が空を舞い、黄色い花を散らす。キンセンカの花びらだ。
 目の前に誰かの掌が見えた、次の瞬間。僕はそれを掴んだ。
 生きたいとか、死にたくないとか、そういう気持ちはない。ただ、僕が望むこと、それは――。

「……――きゃっ!?」
「僕と同じ立場になってもらうこと」

 僕は上体を起こして、屋上に両足をしっかりとつける。同時に、花束が落ちてきた。視線を下してみると、菜津美先輩が僕の腕に爪を立てる。指がくい込む程に強く掴んで、必死に生きようとしていた。

「あなたが僕を助けようとしたのは、スマホを奪うためでしょう?」
「…………」
「何も言わないのは図星だから?」
「いいから……助けなさいよ!」
「どうして怒っているんですか?」
「あんたね……この状況わかってる!?」

 彼女は両足を浮かせて、手に持っていたスマホを落とした。しばらくしてから小さな衝突音、画面が割れた音がする。菜津美先輩を支えているのが、僕の腕一本だなんて……おかしな話だ。僕の気持ち次第で、彼女をどうすることも出来る。

「味方のフリをして、あたなも敵だった」

 僕は菜津美先輩の腕を一瞬掴み、すぐに離した。彼女は絶望の表情を浮かべる。

「騙すのはまず味方から? いや、初めから僕はあなたの道具だった」

 僕の言っていることがわかったのか、彼女は何も言わない。

『はぁ? アイツ天野(あまの)に手伝わせてるのか?』
『やらなくていいんですよ、天野先輩。何だったら、俺手伝いましょうか?』
『ずりー、俺がやるって』
『皆……ありがとう!』

 あなたが陰でやっていることは、全て知っている。僕に近付いたのは、僕の気を引こうとしかたから。手伝っていることをアピールするのは、周りから心配してもらうため。僕をエサにして、自分が目立つため。

「だから、僕も同じことをする」

 踏み台にして、新たな道に進む。

「あなたの失敗は、僕を利用したことだ」

 そしてもう一つの失敗は、僕を敵に回したことだ。
 力尽きたのか、菜津美先輩の手がゆっくりと落ちていく。それに気付いたのか、もう片方の手を伸ばしたけど、許さない。持っていた花束で振り払うと、花びらが散った。

「まずは一人――」

 僕をバカにした奴は、誰だって許さない。
 キンセンカの花束からそっと手を離す。落下してく様子を見つめて、僕は息を吐いた。小さな音を鳴らして落ちた花束は、動かなくなった菜津美先輩の上に添えられた。


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このストーリーに関するコメント

17/03/25 霜月秋介

黒猫千鶴さま、拝読しました。

まさかの結末に驚きました。主人公の憎しみが伝わってきました。ここから千紘くんの復讐劇が始まるのですね。

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