かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 愛は時空を超える

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再会

17/03/20 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:0件 かわ珠 閲覧数:149

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 雨は、止まない。
 車両の窓を叩きながら、水滴は後方へと流れていく。
 1/fゆらぎで走る電車の座席は心地よくて、今にも眠ってしまいそう。まるで歪んだ鏡の中に迷い込んでしまったかのように視界が揺れている。
 そして、夢か現かの境界線上で、私はその言葉を耳にした。
「久し振りだね」
 と。
 とても優しく、穏やかな響き。
 けれども、その声に聞き覚えはなく、誰の声なのかはわからない。その声の主が気になって、ゆっくりと目を開いてみる。辺りを見渡してみるものの、周辺に私に声を掛けたと思しき人は見当たらない。
 ああ、きっと夢でも見ていたのだろう。
 そう自分に言い聞かせて、私は再び瞼を閉じる。
 それはそうだ。ここは私の地元ではない。今は実家を離れて暮らしているから、地元に帰れば、たまたま知り合いと出会って「久し振りだね」、とは言ってもらえるかもしれないけれども、今日私が乗っているこの電車は、長期休暇を利用して訪れている旅先の田舎のローカル線の電車だ。知り合いと出会う確率は決してゼロではないものの、それは限りなくゼロに近いだろう。
 電車の揺れごとに加速していく眠気に、逆らう必要性もないので、その揺れに身を任せ、そのまま眠りに就く。

   ♢   ♢   ♢

 夢を見た。
 私は高校生の姿で、その時に通学で使っていた電車に揺られている。
 吊革の感触も、座席の手触りも懐かしい。毎日乗っていて覚えてしまった、ドアの上に記載されていた車両ナンバーも、変わらない。
 座席に座る。
 窓から差す日の眩しさも変わらない。
 この光景が懐かしい。
……懐かしい?
 いや、私はこの光景をつい最近見たはずだ。
 どこで?
 思い出せない。
 本当につい最近のことだったはずなのだけれども。
 思い出してみようとするものの、夢の中であることもあってか、うまく思い出せない。
 まあ、いいか。
 せっかくの懐かしくて心地のいい夢の中なのだ。ならばもっとこの夢の中に浸っていたい。

   ♢   ♢   ♢

 到着駅をアナウンスする声に、目が覚めた。
 目を擦り、周りを見回す。
 そして、思わず口元が緩んでしまう。
 そうだ。
 夢の中で見た懐かしい電車の中。それはこの電車の車内そのものだった。ドアの上に目を向けて、そこに記載された車両ナンバーを確認する。間違いない。この電車は、かつて私が高校生の時に使っていた電車の車両だ。
 古くなった電車の車両がローカル線に使い回されるというのは聞いたことがある。まさか、こんなところでこんな出会いがあるだなんて。
 電車は駅に着く。
 雨は止んで、雲間から日が差している。
 私は電車から降りて外からその車両の外観を眺める。
 どうして最初にこの電車を見た時に、気付けなかったのだろうか。けれどまあ、最後まで気付けないよりもマシか。いや、この電車に気付かされたのか。
 きっと、あの声の主は……
 なんて思っている内に電車は走り出す。
 その姿を見送りながら、
「久し振り。縁があればまた」
 と、私は呟く。


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