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ちりぬるをさん

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「またね」

17/03/19 コンテスト(テーマ):第131回 時空モノガタリ文学賞 【 電車 】 コメント:2件 ちりぬるを 閲覧数:383

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 周囲の喧噪に掻き消されそうな声で「やっぱりやめようか」と今日子が言い出したのは舞浜の二つ前の駅で止まった時だった。
「水族館にしよう」
 人の間を縫うようにして電車を降りる彼女を慌てて追いながら僕は溜め息をつく。彼女のこういう所が嫌いだった。
 大学を卒業し、地元で就職が決まった彼女とそれをきっかけに別れる事になり、今日が最後の思い出作りのデートだった。あれほど行きたいと言っていたのに、せめて最後くらい楽しく過ごそうと思っていたのに、元々彼女への気持ちも冷めていた僕はこのいつもの気まぐれのせいで余計に萎えてしまった。

 朝の山手線は通学と通勤のラッシュは過ぎていたもののほぼ満員だった。周りに押される形で吊り革を掴みながら久しぶりに彼女と密着する。
「こういうの久しぶりすぎてドキドキするね」
「うん」と僕は嘘をつく。今日くらいはなるべく彼女に合わせようと決めていた。上野に着き、乗客が入れ替わるタイミングで二人して座る事が出来た。立っている人の数も落ち着く。何の話をしようか、と話題を探し始めた時、これで終わりなのだというのを改めて実感した。付き合い始めた時はそんな事考えなかった。というかあの頃はどんな話をしていたっけ?
「ねえ、ちょっとホーム見てて」
 次の駅に着く直前、彼女が窓の外を見ながら言った。
「こないだ読んだんだけどね、電車の中とホームで目が合う人同士は前世で何かしら関係があったってことなんだって」
 僕は一体何十人と前世で会ってたんだよ、と彼女に反論しようと電車に乗ろうと並んでいる人達と目を合わせようとするが誰とも目が合わない。
「私も全然誰とも目が合わないんだよね」僕の心中を察したかのように彼女が言う。
「本当にこういう話好きだよな」
「だってロマンチックじゃない」
 彼女はオカルトというか、この手の生まれ変わりだとか前世だ来世だ運命だという話が昔から好きだった。あまりそういう話を信じない僕はいつも話半分に聞いていて「信じてないでしょ」と彼女をふくれさせたものだ。
 ふいに彼女の携帯が鳴り、なんでマナーモードにしてないんだよ、と僕はまた少し不機嫌になった。


 病院内に響く携帯の着信音で目が覚めた。僕は慌てて電話を切り妻以外周囲に誰もいない事に胸を撫で下ろした。なぜ今頃十年も前の出来事を夢に見たのだろう? 首を傾げながら画面を見ると大学時代のサークルの後輩からだった。
「ちょっと電話してくる」と妻に告げて僕は病院の外に出た。

「タツヤ先輩、明日って来れますか?」
 折り返した電話の第一声がそれだった。何の誘いか分からなかったが、明日一歳になる娘の明日美が怪我をして今病院にいる事を伝えた。「一命は取り留めたけど誕生日は病院で祝う事になりそうだ」と言うと彼は「じゃあ仕方ないですね」と電話を切ろうとした。
「ちなみに明日何があるの?」
 朝から気を張り疲れていた僕は誰かと話しをして気を紛らわせたかった。
「あーっとですね……先輩知らなかったんでしたっけ?」
「なにがだよ?」妙に歯切れの悪い後輩を問いつめる。
「……今日子先輩の一周忌です」
「え?」僕は耳を疑った。
「去年事故で亡くなったんですよ。タツヤ先輩お子さんが生まれる時期だし言わないでおこうって事になって。まだ聞いてなかったですか」
 この一年仕事と子育てに忙しくてたまにある誘いも断っていたし、新婚の僕に気を遣ってくれていたのだろう。
「こんなタイミングで……なんかすみません」


「なんかごめんね」
 最後のデート、帰りの電車で今日子が言ったのは彼女の家の最寄り駅に着く少し前だった。
「無理してくれてたの分かったから。今までありがとうね」
 急に意地らしくなる今日子に戸惑っていると「それで最後にお願いがあるんだけど」と彼女は続けた。
「嘘でもいいから、私が嬉しくなる言葉をちょうだい」
 一度は心から好きだった彼女の真っ直ぐな瞳を無視出来るほど僕は非情にはなれず、これまでの彼女との日々を思い返した。
「こんな結末になったけど……次に生まれ変わったら、また付き合おう」
 他人が聞いたら鼻で笑いそうな台詞だったが、まさか当の彼女が笑い出すとは思わなかった。周りの人がチラチラと見るくらいの大笑いを続け、ようやく落ち着いた彼女はなんで? と問う僕に
「だって、それ前世でも言ってたから」
 そう答えてまた笑い出した。目に涙をうっすらと浮かべながら。
「楽しかったよ、ありがとう」
 電車が駅に着き、彼女が立ち上がる。
「前世では友達止まり、現世では恋人になれたから、来世では家族になれるといいな」
 最後まで何を言っているのだろうと怪訝に思いながらも「またね」と差し出された手を「元気で」と握った。ドアが閉まり、窓の外を見ると人ごみの中、彼女とだけ目が合った。


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このストーリーに関するコメント

17/03/20 まー

君の前前前世から〜♪ すいません、読後思わず鼻歌が出た次第です(笑)。
やはり、ちりぬるをさんが描く少し電波な女の子は魅力的ですね。

17/03/20 ちりぬるを

まーさんいつもコメントありがとうございます!
ですよね、前前前世がどうしても頭にチラついてあわやタイトルがそれになりかけました(笑)

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