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しーたさん

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流れる時間の真ん中で

17/03/18 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:2件 しーた 閲覧数:152

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 今日、ニ00八年三月九日だけが、××の世界のすべてだった。来年度から通うはずだった高校のことも、体調の優れなかったペットのことも、毎週欠かさず見ていたドラマの内容も、この日を境に、××にとってどうでも良いものと成り果てた。
 太陽がのっそりと顔を出し始めた頃、××はゆっくりと玄関の扉を開けた。舗装されたコンクリートの地面に視線を落としながら、物憂げな表情で待ち合わせの場所へと向かう。
 なんとかならないのか、と、××は無表情に足を動かしながら、ただそれだけ思った。
 そんな××の心境など気にも留めないといった様子で空は少しずつ明るさを増し、××の重い足が止まることもなく、しばらくすると、落としていた視界の端には見知った靴があった。
 もう、待ったわよ。
 ……ごめん。
 さ、遊園地行こう。
 ……うん。
 有紗の声が、××の耳から頭の中に入ってくる。聞き慣れたその声は、何度聞いても××にとって心地の良いものだった。
 有紗は××の手を取って歩き始める。
 どうしたの?
 ごめん、なんでもないんだ。
 なんでもなくなどなかった。××の頭は家を出る前からフル稼働していて、もうオーバーヒート寸前で、表情や会話にリソースを割り振る余裕なんてなかったのだった。
 あ、信号変わっちゃう、
 待って!!
 ××は、勢いよく走り出そうとした有紗の手を引いた。
 有紗は驚いた表情を××に向けて、
 どうしたの?
 いきなり大きな声出してごめん。でも危ないから、ゆっくり行こう。
 繋いだ手が汗ばんでいるのが××にはわかった。口の中は乾燥し、上手く声が言葉にならない。
 変なの。
 そう言って笑った有紗に向かって、
 有り得ない方向から車が突っ込んできて、
 次の瞬間、有紗は地面に横たわっていた。
 灰色だった世界が、どす黒い赤で染まっていく。
 人が集まってくる。
 救急車を呼べ、警察を呼べ。
 そんな声が遠くで聞こえる。
 ××は、その場から動けなかった。
 有紗は、倒れたまま動かない。



 視界が、世界と共に捻じ曲がる感触が××を包む。
 やはり無理だ、と××は思った。
 こんなことを、何回繰り返したかわからない。
 始まりは唐突だった。
 有紗が点滅する青信号に向かって走り出し、××も何も考えずそれに続き、その直後有紗は轢かれた。
 そして、気がつくと××はベッドの中にいた。カレンダーを見ると有紗と遊園地に行く、まさにその当日であり、時計を見ると、待ち合わせ時間の一時間前。
 何が起こっているのかわからず、夢だったのかと胸を撫で下ろし、全く同じ状況で同じことが起こった。
 それから、××は色々なことを試した。
 道を変える。
 会話を変える。
 目的地を変える。
 移動手段を変える。
 待ち合わせの場所を変える。
 そもそも待ち合わせの場所に行かない。
 だが、結果は変わらなかった。
 その度に有紗は血を流し、××は涙を流した。そのうち、枯れ果てたのか××の目から涙はなくなった。××はショックから自分の名前すらも忘れ、無情に流れる時間の中で運命に抗った。


 そして、また××は失敗したのだった。




 気がつくと××はベッドの中にいた。カレンダーを見ると有紗と遊園地に行く、まさにその当日であり、時計を見ると、待ち合わせ時間の一時間前。



 また同じ朝が始まる。






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このストーリーに関するコメント

17/03/19 りょう

面白かったです

17/03/19 しーた

>りょうさん

ありがとうございます!!

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